2006.1.21/二段目






 誰かを愛した事はありますか。














 一里塚木の実の問いに、西東天はおもしろそうに笑った。
「何だ、突然」
「いえ、不意に思いついただけです。ふかい意味はありませんわ」
「そうか」

 彼と木の実は歩道を歩いていた。横では車が走り、時折他人とすれ違う。夕方に染まりつつある世界のなかを、ふたり、並んでいた。
「ある」
「どなたですか?」
「皆死んだ」
 簡潔な答に、彼女は微笑する。
「ならばわたくしは、死人と戦わねばならないのですね」
「明楽が生きていればよかったんだろうがな。明楽も死んだ。ま、がんばれ」
 他人事のようにかるく言う彼に、木の実はうなずく。がんばりますわ、と言ったところで、彼女は問いたかった事を思い出した。傍らの彼を見上げる。
「今日はどちらに?」
「新しい手足集め。《十三階段》は解散したから、新しい名前を考えろ」
「わたくし、そういうセンスには欠けるんですけれど」
「とりあえず考えてみろ」
「今度は何人くらいのご予定で?」
「そうだな──十人、程度にしておくか。足りなかったら補えばいい。十三人は、なかなかにぎやかでよかった」
「そうですわね」
 ひとり、またひとりと、いなくなってしまったけれど。
 それでも、よかったと、ふたりは言った。
「るれろに声をかけなおす予定だ。一度切り捨ててしまったが、さて、またついてきてくれるかどうか」
「るれろさんなら大丈夫だと思いますわ。でも、一発殴られるぐらいは覚悟しておいた方がよろしいかと」
「………わかった」
 真剣な顔でうなずく彼に、笑う。
「そういえば木の実。時刻はどうした?」
「……時刻さんをまた部下に?」
「ん、反対か?」
「当たり前です。狐さんを危険に晒した方ですよ?」
「実際は危険ではなかった」
「あの方はもう操想術を使えませんよ」
「また使えるようになると思うか?」
「本人次第かと」
「捜し出せ。役立ちそうならば俺がまた誘ってやる」
 木の実はため息混じりに、それでも了解しました、とうなずいた。
 彼は歩きながら、さらに思考する。
「あとは誰がいたか……ノイズは使えるかな」
「園樹さんに訊かないとわかりません。訊いてみますか?」
「ああ。……うん、あと《殺し名》がほしいな。さて、誰がいいか──」
「……狐さん、お考え中のところ申し訳ないのですが、結局いまはどこに向かっているのですか?」
 憶えがあるような道。
 思い違いだろうかと思いながら問うと、ああ、と彼は笑った。狐面のない彼。
 西東天。人類最悪。
「運命のままに」
 遊び人は前を見たまま、しずかに、告げた。
「物語に流されているだけだ」
 夕陽に照らされた横顔に、木の実は一瞬、まぶしそうに目を細めて──ゆっくりと、笑った。
「………狐さん」
「ん?」
「物語のなかで、わたくしは、ずっとあなたのとなりにいます」
 彼と目を合わせて、言う。
「世界のおわりを、あなたの傍らで見届けます。狐さん、わたくしはあなたを愛しています」
 ずっとここにいると、彼女がささやくように誓い、彼はうなずいた。
「当然だろう」




















 ふと、彼が思い出したように言った。
「そういえば木の実」
「はい」
「もう狐面は供養に出した。俺は狐さん≠カゃないぞ?」
「え?」
「名前で呼べよ。ゆるしてやる」
「………な、なまえ?」
「ああ。西東でも天でもどちらでも。だが、俺が木の実と呼んでいるのだから天と呼ぶのが妥当じゃないか?」
「た、かし……さん?」
「ん。照れてるか。顔赤いぞ」
「…………からかわないでください」
 俺はいつでも本気だよ、そう、彼は笑った。

















《空間製作者》/一里塚木の実





前書いたやつの設定ずるずる。木の実さんは最大のライバルは明楽さんだと思ってるよって話(何かが違う)。
木の実さんと狐さん、男女のなかではいちばん好きなくらいです。木の実さんが狐さんに恋していて、狐さんが木の実さんを部下と思っていればそれでいい。この際報われてもいい。








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