2005.12.28/五段目






 あの少女がうらやましかったのか、そう問うてきたのは木の実だった。俺はそうだな、と答えた。曖昧な返事だ。あの戯言遣いの言が移ってしまったのだろうか。
「………わたくしは先に行っておりますね」
 木の実はいつものようににっこりと笑い、くるりと踵を返し背を向けた。何だ、嫉妬でもしてるのか?そうからかってやろうかと思ったが、その背に笑うだけにおさめた。
 その墓石には刀と花束という、似合わない、ある意味では対極に位置するふたつが捧げられていて──いや、とくに、何の感慨も抱かないが。
 けれど俺はその墓前に立っていた。すこし、寒い。
「ま……お前らは、地獄になんか行かないだろう。天国で、祖父と孫で仲良くするがいい」
 普通の老人。
 普通の恋人。
 普通に求めた恋人の遺品。
 普通の少女。
 普通に祖父を愛した少女。
 普通に祖父の遺志を継いだ少女。
 彼と彼女の墓。
「ったく……戯言遣いも、こんな場所にわざわざ来させやがって」
 花を買うなど何年ぶりだろう。
 遠い昔、姉(そのときもどちらかはわからなかった)に頼まれて買ったときが最後かもしれない。
 正直、木の実がいなければ、こんなに色合いが鮮やかな花など買えなかった。こういう事にセンスがない事は自覚済みだ。だから《十三階段》という名称も理澄に考えさせた──実際には、その頃《十三階段》にいたメンバー全員に考えさせたのだけれど。
 けっこう騒がしいイベントになったあの頃、この少女はいない。
 少女が《十三階段》に属していた期間はほんのわずかで──他のメンバーに紹介するひまもなかった。
 べつに、どうでもいい事だ。
 もうおわった事だ。
「………お前らは、もう俺の中では死んでいる」
 ぽつり、とつぶやく。











 ────それでも俺は、
 きっと、この普通≠、想うだろう。











 うらやましがる必要はない。
 ほしがる必要もない。
 俺がこのおもしろい世界に生きるのに、必要ない事だからだ。
「じゃあな、十一代目と──十二代目」




























 ───それでも一生、
 俺はまた、普通≠フ人間に出会いたいと願うのだろう。
 ひとり笑いながら、墓石に背を向け、俺は歩き始めた。

















《刀鍛冶》/古槍頭巾





頭巾ちゃんかなり好きでした。じーちゃんの話もかなり好きでした。…ぐすん。
普通に憧れる、って、兄貴の話のときにもあったけど、すごい心に響きます。
ああそうだなぁ、って、すごく納得した。








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