2005.12.24/七段目
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右下るれろは、澪標姉妹のように西東天を狂信しているわけはなく、一里塚木の実のように西東天に恋しているわけではなく、奇野頼知のように西東天を愛しちゃっているわけでもなかった。
すべて違うし、あるいはすべての感情を持っているともいえる。
ただもっとも的確な言葉で右下るれろにとっての西東天という存在を表すならば──救世主≠ゥもしれない。
「たぶん、そんなところさ。あたしは狐さんが好きだけど──もしかしたら、恋してるし愛してるかもしれない。信仰してるかもしれない。でも何より、狐さんはあたしにとっての救世主さ。神様ってわけじゃないけどね」
自身の言葉に納得し、うん、とうなずく。そんなるれろを診察していた絵本園樹は、よくわからない、という顔をしていた。べつにそれでよかったので、るれろは笑う。
「あんたはさ、ドクター。狐さんのまわりでは怪我人が出て、死人も出ちゃうから十三階段にいるって言ったけど──あたしのはこんな理由だよ」
「よくわかんないなぁ……」
「わかんなくてもいいさ」
「き、訊いたのはあたしなのに……な、何でわかるように、こ、答えてくれないの……ひ、ひどいわ、ひどいわ、あたし……」
「あー泣くな泣くな!説明しにくいんだってば。まったく……」
るれろはベッドに固定された状態のまま、ため息を吐く。
ほんとうに、うまく言えないのだ。
狐面の男──人類最悪の西東天のそばに、なぜいるのかなんて。
「狐さんは……あんなひとだけど」
彼女をこのまま泣かせ続けるわけにはいかないから──というだけではない。自身の心を整理するために、という事もあって──るれろは言葉を続けた。
「あんなひとだけど、あたしは──ずっとあのひとについていきたい。あのひとのために、あたしは生きたい」
そんな想いを、一瞬でもくれた。
最悪の男。
「るれろ。調子はどうだ」
ノックもしないで扉を開くのは、この男の悪いくせのひとつだと思う。
あたまはとてつもなくいいはずなのに、なぜこういう常識的なところが抜けているのか──苦笑のようなものを浮かべながら、片目だけで彼を見る。
「見ての通り」
「たしかに」
ふん、といつものように言って、るれろが横たわるベッドの傍らに椅子を引っ張ってきて、座る。
「どうしたんだい?ドクターにあたしの様子は聞いてるんだろ」
「ああ」
うなずいただけで、彼はそれ以外何も言わない。
──という事は、様子は聞いていても、いちおう直接見に来たという事か。
まったくなぁ、と思う。
もうちょっと直接的に、素直にやれば、女性だけじゃなく男性にももてるだろうに。
まぁ、頼知みたいなのがときどきいるのだから大丈夫か。
「救世主=v
「え?」
「ドクターが言っていた。相変わらずの調子で言うから、あんまり聞き取れなかったがそんな感じだろ。何だ、それ?」
あのおしゃべり女──と思うが、べつに彼女はおしゃべりなわけじゃないだろう。ただいつも怯え泣いているので、ときどきぽろりとたいせつな事をしゃべってしまったりするのだ。
今度怒っておこう。恨まれない程度に。
「どれくらい聞いた?」
「お前が救世主の話をしたって、それくらいしか聞き取れなかったな」
何なんだそれは、と、また繰り返される質問。
どうやら、るれろにとっての目の前の男の事だとまでは、言っていないらしい。
さすが十三階段のひとり。怒るのは半分だけにしておいてあげよう。
「で、何なんだ救世主って。何かの漫画の話か?」
「何でそうなる」
「いや、それっぽいじゃねぇか」
漫画読まねぇのかお前、と首を傾げる男に、るれろは思わずくすり、と笑う。
めずらしく、ただ──ただこぼれた微笑に、彼は意外そうな声を出した。
「何だ。お前がそんなふうに笑うなんてめずらしいな」
「そう?」
「ああ。で、何なんだ。救世主って」
「救世主は救世主さ。ま、比喩みたいなもんだけどね──わかんないなら気にしないでいいよ、うん。その方がおもしろいし」
「何の話だそれは」
「おっと、命令されても話さないよ。プライバシーの侵害になるからね」
上機嫌に笑って言うと、彼から発せられる空気がすこし不穏なものに変わった。
あらゆるものに興味を示し、あらゆるものをおもしろいと感じつまらないと言う貪欲な彼にとって、わからないものがあるのは苦痛なのだろう。
考えろ考えろ、と、すこしだけ意地の悪い気分で思う。
「………わからん」
拗ねたようにうめいた人類最悪に、るれろは笑った。
あたしの人生はあんたと出会ってこんなになっちゃったんだから、
ねぇ、すこしはそうやってあたしの事で悩めばいいよ。
るれろさんだいすきです。わたくしネコソギの中で、るれろさんと会話している狐さんに惚れ直した女なので(惚れ惚れ)
るれろさんと狐さんって悪友って感じがします。また当たり前のように狐さんといっしょにいればいいなーと思う。
html / A Moveable Feast
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