2005.12.24/九段目






 彼が自室として使っている部屋にもどると、その扉の前に彼女が立っていた。
「………?」
 眉をひそめる。彼は彼女に会っていた。たったいま別れたところだった。
 そうなると、彼女は───
「深空?」
 彼女の、名前を呼ぶ。
 彼女はゆっくりと振り返った。
 戦闘に関しては素人である彼の気配など、とっくに気がついていたのだろう。
「そこで何してる?俺に用か?」
「そうです」
「いま高海に会ったぞ。お前をさがしてた」
「知ってます」
「………あ、そ」
 双子特有、で何か繋がっているのか?と彼はバカらしい事を思った。彼女は彼のそんな思考にはかまわず、彼に向かって口を開く。
「狐さんの部屋には誰がいるのですか」
「……誰もいねぇはずだが」
 誰も忍び込んでなければな、と肩をすくめると、彼女は首を振った。
「いるはずです。それが知りたくてここまで来ました。でもわかりませんでした」
「深空」
 彼は名前を呼び、それからすこし、考えた。
 ふたたびバカらしいと思いながらも、いちおう、という意味を含めて問うてみる。
「それは物理的な部屋の話か?それとも精神的な部屋か?」
「精神的な方ですが物理的な方から責めてみました」
 ああそうか、と、彼はあきれたように息を吐く。実際、あきれた。
 すたすたと彼女のもと──というより扉の前まで歩み寄り、扉を開ける。
 部屋の中はほとんど何もなかった。目立つものは、布団と、本。それだけだ。
「この通り」
 彼は振り向き、彼女に微笑みかける。
 仮面を被ったままなので、意味はなかったかもしれないが。
「何も、ねぇよ」









 ───おわりさえ、ここにはない。









「……わかりました」
 ぺこり、と、彼女はあたまを下げた。
「でも、狐さん。私は」
 部屋に一歩、足を踏み入れた彼に、彼女は最後とばかりに問う。
「ときどき、狐さんの愛したものの名残をすべて殺したくなります」
 彼女は、彼女とおなじ事を言った。
 まるで打ち合わせをしたようだが、そんな事はないだろう。
 それが、澪標姉妹だ。
「………ふん」
 しかし彼は、彼女らのようにおなじ答を返す気にはなれなかった。
 だから違う答を返した。
「そんなもんはねぇよ。ここには、な」
 そして、彼女を最後に見て、扉を閉める。





















 ………名残も愛もすべて、
 この心のなかに。

















《殺し屋》/澪標深空





変わらず難しかった…
とりあえず私は明楽さんの事を意識しすぎですね。
でもほんとネコソギの狐さんの明楽さん愛っぷりには泣けるものがあったのでどうしようもないですもう。








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