2005.12.24/十段目
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めずらしいな、と彼は思った。それが最初の感想だった。
あの双子の姉妹は、常に、まるで影のように常にふたりいっしょにいるというのに。
「どうした?」
そのときちょうど彼はひまだったという事もあって、ただのきまぐれでそう声をかけた。
そうすると彼女は顔を上げ、目をまるくした。
「狐さん」
「あー……深空か?」
「高海です」
即座に返されて、彼は悪い、ととりあえず謝った。言動も何もかも、似ている──というより、おなじ、であるこの双子の姉妹を区別できる人間がこの世にいるのだろうか。彼は常々疑問だった。どうでもいい事だが。
「深空はどうした?いっしょじゃねぇのか?」
「さがしているんです」
「ん?」
「今朝起きたらいなかったんです。知りませんか、狐さん」
「あー……知らねぇな。今日お前らに会ったのは、いまがはじめてだ」
しかし、と、彼は笑う。彼女はその様子に首を傾げた。
「何ですか?」
「お前らでも別々になる事があるんだな」
「ありますよ」
「どうも想像できなかった。当たり前だがな」
肩をすくめて、彼はまた歩き出そうとした。けれど、狐さん、と呼ばれて、足を止める。
すぐ目の前にいる彼女は、狐の面を被った彼をまっすぐに見上げ、言った。
「狐さんは僕──私の事を愛してはくれませんか」
彼は一瞬だけ沈黙した。
けれどすぐに答えた。しずかにかぶりを振る。
「無理だな」
「そうですか」
「だいたい、お前と深空の区別がつかねぇ男でいいのか?」
皮肉そうに言う彼に、彼女は迷うように口を閉ざしたが、そう時間も経たないうちにうなずいた。
「狐さんが愛してくれるなら何でもいいです」
「………そうか」
「私と深空はそれでいいんです」
「わかった」
「狐さんは誰を愛してるんですか」
「べつに。誰もいねぇよ」
こんなに彼女と長く話すのははじめてかもしれない──彼は不意に思った。彼女は、彼女らは、いつだって話しにくい。
まるで彼を神のように崇める。
彼はそんな大層なものではないというのに。
「わかりました」
彼女はうなずき、それからぺこり、とあたまを下げた。
彼女が彼の横を過ぎ、歩き始める。その足音を背に聞き──ふと、彼は振り向いた。
彼女もちょうど振り向いたときだった。
「ときどき、狐さんの愛したものの名残をすべて殺したくなります」
何の前触れもなく、彼女は言った。
彼はふん、と、いつものように笑った。
「名残などいくらでも殺せ。俺は痛くも何ともない」
そして背を向けた。
お互い、もう振り向かなかった。
引き続きめっちゃ難しかったです…
双子の姉妹は狐さんを溺愛して信仰していた、のにくわえ、狐さんを必死に振り向かせようとしていながらどこかであきらめていたらいいかもという妄想。
それでもあきらめきれなかったから彼女らは彼の手足となった。
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