2005.12.23/十一段目






 音楽が好きだ。
 考えてみればノイズにとってたいせつなのは音楽で、それだけで、それがすべてなのかもしれない。
 だからノイズはよく音楽を聞いている。ヘッドフォンをはめて、聞いている。
(………あ、雑音)
 機械がおかしくなってきているのか。音楽の合間に、わずかに入る耳障りな音に、ノイズは眉をひそめた。不快に思い、音楽を一度、止める。
「狐さーん!」
「そんなおおきな声出さなくても聞こえる」
 そのとき、部屋の外の声が聞こえた。どたどた、という足音と、誰か知らないが女の子の声、ノイズのいまの雇い主の声だ。
 ノイズはすこしだけ目を細めて、けれどまた音楽を再生した。雑音が消えていたので、満足する。
 あかるめの音楽が耳を打つ。歌はなかった。音楽だけだ。音楽といううつくしいものに、おそらくこの世で唯一マシ≠ネものに、人間の声を乗せるなどノイズには信じられなかった。
 それだけで壊れてしまうのに。
 なぜそんな余計な事をするのだろう。
「ノイズ」
 す、と目の前に影ができる。顔を上げると、狐面をかぶった男がいた。
 ついさっき扉越し、廊下にいたはずの男が、なぜここにいるのか。考えようとしたがどうでもよかった、その事に気がついてヘッドフォンをはずす。
「飯だ。食わないのか?」
「………ああ、どウモ」
 音楽を止める。壁から背をはずして立ち上がり、なぜかすぐに動かない彼を置いて部屋を出ようとした。
「ノイズ」
 しかし、扉に手をかけるよりもはやく、ふたたび呼びかけられる。
 振り向くと、彼は何かを考えるようにその場に立っていた。
 その横顔は、ノイズにはわからない。仮面をかぶっているからだけではない。
「お前、何でいつも部屋の隅にいるんだ?」
「理由、イル?」
「いや、ねぇんならいい。ただ、何でだろう、と思っただけだ。気にすんな」
 肩をすくめてみせる男を、ノイズは見た。
 彼は動こうとせず、そこに立っている。食事に呼んできたのは向こうだというのに、なぜ行こうとしないのか──ノイズは首を傾げた。
「ノイズ。死にたいか」
 ふと。
 彼は振り返って、そんな事を言った。
 ノイズはいつものように答えようとしたが、彼はべつに答を望んでいるわけではないようで、言葉を続ける。
「名前がないから死にたいというのは、どんな気分なんだろうな。俺には名前があるが──皆、俺をこの狐面の名で呼ぶ。しかし俺はべつにそれで死にたくはならない。お前と違い、それでも俺には名前があるからだろうか」
 質問ではなく、ひとりごとだ。聞くべきかどうか迷いながら、ノイズは立ち尽くした。
 相変わらず、表情は読めない。
「だが、呼ばれぬ名前など、名前ではない」
 呼んでほしいのか。
 そう、思わず問いそうになった──けれど質問する意味はない。
 質問しても、何にもならない。
 ノイズはそのまま口をつぐみ、彼は笑ったようだった。
「けれど、この名で俺を呼ぶ者が生きていれば現れる。だから俺は死にたくはならないのだろう、と──そう思った。お前を見てな。生きていれば、俺の名を呼ぶ人間と出会う。そう、それを、俺がゆるす人間にな──それが片手で数えられるほどの人数でも、それでも俺は生き、俺の名前は生きている」
 ノイズはふ、と思った。
「ノイズ。世界のおわりを見せてやるよ」
 名前を持っているというのに、ゆるす者にしかその名を呼ばせない男。
 その彼の、奏でる音。















 何て、───雑音かと。















「だから生きろ。せめて、それまでは、な」
 まぁ無理にとは言わねぇが、そう続けて、彼は何事もなかったかのようにノイズの横を通り過ぎた。
 扉が開き、彼が廊下を歩いていく音がする。
「………狐さん遅い!ご飯が冷める!」
「ああ、悪ぃ。ノイズもすぐ来る」
 そんな声を聞きながら、ノイズはしばらくその場に立ち尽くし──やがて、口元を綻ばせた。
 喜びゆえにでも、楽しみゆえにでも、幸福ゆえにでもなく───

























(笑えル)
 嘲りと、終末の夢ゆえに。

















《不協和音》/ノイズ





ノイズくんめっちゃ好きですが限りなく難しかった…ものすごく人生がどうでもいい感じの人間にしてしまいましたがえーとすみません…いいのかな…
皆狐さんの名前って知ってるんですかね。呼ばないってだけかな。ちょっとした疑問からきた妄想です。狐さんは名乗った相手にしか呼ぶ事をゆるさなければいいよ…








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