2005.12.26/「これは独白なので返事は無用」






「ああ───そうだな。たしかに、すこしはわかる。すこしだけは理解できるな、それ」
 零崎はうんうん、と何度もうなずいた。ぼくは水を飲みながら──零崎は飲んでいない、酒が飲みたいとかほざきやがった、未成年だしこのアパートにはそんなものはない──零崎の返答の続きを待つ。
「つまりさ、それこそ存在認識、存在否認だよな。ここにいる理由──まぁそんなのはいらねぇと思うけど。俺はね。それこそ、後付の理由、ってやつだろ」
「零崎はそんな事は考えないのか?」
「まーな。でもときどき、考えるぜ。俺なんでここにいるんだろ、って。とくに家族といるときとかはな──そのせいで、家にいる事もなく、放浪癖がなおんねぇのかもしれねぇ」
「家族ね……お前に家族がいるっていうのにぼくは驚きだよ」
「まぁ、実の家族じゃねぇしな」
「何だっけ、お兄さんだっけ?」
「そうそう、変態のバカとか変態のバカとか変態のバカとか、そんな兄貴がいる」
 肩をすくめて、零崎は笑った。
「家はいちおうあった。俺にとっての家族は兄貴だけだけで、でもその兄貴ももういねぇ──だから、お前が言うところのその場所にいる理由≠チていうのは、失われてる。それでも俺はあの家にもどったりもするんだろうし、理由がなくても帰ったりする。兄貴という理由がいてもいなくてもおなじだ」
「つまりそんな理由はたいした事はないと」
「そういうこった」
 そっちは?と、どうでもよさそうに訊かれる。ぼくもどうでもいいふうを装って答えた。
「ぼくは──ぼくにとっての家はここだ。ここに住んでるひとたちは好きだし、まぁまぁいい部屋だし、うん──でもそうだな。そんな理由は、たしかにどうでもいいな」
「だろ?単純に考えりゃわかんのに、お前はいっつも考えすぎなんだよ、いーたん」
「いーたん言うな」
 ツッコミはとりあえず入れておいて、ぼくは水をまた、飲む。
「存在否認」
 ぽつり、と零崎が言った。ぼくは窓辺に座る零崎を見た。
 零崎は相変わらず笑っている。
「俺がここにいる理由」
 ぼくを見る目は、出会ったときからずっと、変わらない。
 おそらくずっと変わらないだろう。
 ぼくがこいつを見る目が変わらないのとおなじように。
「俺がなぜそこにいるかなんて、理由はさっき言ったみたいにどうでもいいし曖昧なもんだけど、これだけははっきりしてるぜ。欠陥製品──お前はどうよ?」
 わかりきっているだろうに、零崎はわざわざそう問うてきた。
 ぼくは仕方なく、ぼくに答えてやった。
「存在認識のためさ、人間失格」





















 だな、と、零崎は笑い、酒が飲みてぇとぼやいた。










愛すべき友人




ぼくらはこうして傷を抉り舐め合っていく。






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