2006.1.1/「忘却を犯せないかわいそうなわたしたち」






「先生」
「何?」
「先生はあのひとがわたしたちを捨てる事をどう思いますか?」
「そうですね、私もあればかりは予測できませんでした」
「あら、意外」
「彼は私の予測という予測をすべて超越している人物でした。だからこそ私は彼と彼の研究に興味を示し、彼に協力する事を決意したのです」
「先生はあのひとを愛していた?」
「愛──いいえ、敬愛はしていました。彼のために、彼の研究を成功させたいと考えていましたしね。あなたはどうなの?朽葉」
「わたし?わたしはあのひとにとくべつな感情を抱く事はなかった──はず。自分でもわからない。あのひとはわからなかったから」
「そうですね、それはたしかに私も思います。あのひとを理解できる人間などこの世にはいないでしょう。あのひとは最悪でした。最悪を理解できる人間などいるでしょうか?」
「わたしにはわかりませんね。どうでもいい事です──ねぇ先生。あのひとにまた会いたいと思いますか?」
「わかりません」
「そうですか。わたしは会いたいと思います」
「あなたがそんな事を言うなんて、めずらしいですね」
「あのひとはわからなかったから、もう一度会って確かめたいんです。わたしはあのひとをどう想っていたのか、あのひとがどこに行こうとしているのか。わたしを扱う$l間に、そんな感情を抱くのはたしかにめずらしいわ──あのひとが最悪だからかしら」
「どこに行こうと──ええ、あのひとはたしか、ここを去る前私たちにそう訊きましたね。いつかどこかであのひとはその質問を違う誰かにしているでしょう」
「予測ですか?」
「確信です」
「……わたしは、わたしたちがどこに行くかより──あのひとがどこに行くかを知りたい」
「そんな事はあのひとにしかわからないと、私は予測します」
「あのひとの質問に、わたしたちは何と答えたか憶えていますか?」
「あなたの行くところへ=v
「それは願望ですね」
「そうですね。決して叶わないものですが」
「先生、わたし、あのひとに、言いたい事があるんです」
「私もあります。おなじ事かしら?」
「そうかもしれません」
「でもあのひとは私たちを見捨てました。それこそ叶わない事です」
「同意見です。それでもわたしは望みますよ──あのひとがいつか、奇跡のようなものが起こって、ここに来たとき」













「おかえり」













「朽葉。私は私たちがそう望む事をあらかじめ予測していました」
「予測などどうでもいい事です。わたしはそれが叶うなら、死んでもかまいません」
「私も──そうですね、そうかもしれません」
「先生」
「何ですか」
「あのひとはわたしたちを捨てましたね」
「そうですね」
「それでもわたしはあのひとを待っています」
「私も待っています。ええ、それこそきっと──くだらない℃魔ネんでしょうけれどね」










哲学の原子





ひどいあなたに、おかえりなさいと言いたかった。






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