2006.1.1/「何てうつくしいお方なんでしょう!」






「ああ、彼女は──彼女は神だ。神よりも尊く、魔王よりも暗く、天使のようにうつくしい。ああ、いま俺を変態だと思ったね?すくなくとも変人だとは思っただろう。かまわないさ、彼女のすばらしさをわからない人間がかわいそうだと俺は思う。それだけの結論が出るという、そういう話さ」















 彼女はパソコンと向かい合って、うーん、とうなった。同時に青い瞳を瞬かせて、ねむたいな、と思った。けれどしなければならない事があった。眠るわけにはいかなかったので、彼女はふたたびキーボードを操作しコンピュータを弄り始めた。
 彼女がかつてともにしていた仲間は、いまはばらばらになっていたが、最近そのうちのひとりが幽閉されている事がわかった。結果的に彼は自由の身となったわけだが、どうやら彼がオンライン上で問題を起こしているらしい。彼の得意とする破壊>氛沐゙が持っている唯一の破壊>氛泱ハ倒だと思いながらも、彼女は仕方なくそれを相手していた。ひとつは彼女の兄がこまっていた事、ひとつは彼女のかつての仲間がうんざりしていた事、それらを理由として彼女は働いていた。
 彼女はため息を吐いた。いま破壊を行っている男は、何よりもこれ≠目的としているのだろう。それにまんまとはまるのはべつにかまわなかったが、こんなにまわりくどくしなくても、と思ったのだ。















「うん、きみはさきほど、すこしだけ俺の破壊≠ノ協力してくれた人間だから、ちょっと話をしてあげよう。彼女は──支配者。彼女は天才だ。支配者というのは俺のような人間にとっての名だが、一般的に称するならば彼女は天才≠セろう。彼女はすばらしい天才だ。すばらしすぎるがゆえに、それを知らない人間もいるけれどね──彼女は選ばれた人間。その彼女に選ばれた少年がいるのだけれど、まぁ、それはどうでもいい事だね」















 彼女は数時間かけて、おなじ作業を繰り返した。その数時間は重なり、やがて数日となったが、彼女にはすでにその感覚もなかった。
 ようやく彼女は見つけた。彼女は微笑んだ。
「………ほんと、手がかかるね、さっちゃん。」















「そう、つまるところ、彼女の魅力は魅入られたものにしかわからないという事さ。彼女は神を超越した女神、魔王よりも勝る少女、天使よりもすばらしい人間──彼女の魅力を知れとは言わない。それを強制したりはしない。彼女は関わったものの人生を変えてしまう天才≠セからね、わざわざおすすめはしないよ。けれど、そう──いつか彼女に出会うとしたら──彼女に出会う機会がこの先、万が一にも、あるとしたら──」
 そこで男は言葉を止める。
 彼が会話していたパソコンの隅に現れたアイコン。それの意味する事に彼は口の端を曲げて笑い、告げた。
「すまないね、俺の目的が来たようだ。またこのひろい世界で会う事があったらよろしくたのむよ。今日のは前哨戦みたいなものだ──俺が狂わないためのね」
 そしてウィンドウを閉じ、かわりにアイコンをクリックする。
 新たに現れたウィンドウに、文字が打ち込まれた。チャットだ。
さっちゃん、ひさしぶり。
 彼は答を打たなかった。
 文字が打ち込まれていくのを、ただ、見る。
私の事、知ったんだね。だからってこんなに壊すのはよくないよ。知るだけでこうなったら、それが起こってしまったときに何をするつもり?
 答は打たない。
 彼は待つ。
 画面の向こうの彼女≠ヘ、澱みなく言葉を打ち続けた。
さっちゃん、私
 彼は、待つ。
















私、死ぬよ
















 彼はキーボードに指を伸ばした。
私から聞けて、満足?
 キーを打つ。
「いつ会いに行ったらいいでしょうか」
 ぽろ、とこぼれた涙は一粒だけで、彼はその後何の表情も浮かべずに、一瞬だけ目を閉じて暗闇に溺れた。










涙をひとしずく





私が泣くのも笑うのも生きるのも、すべてあなたのため。






html / A Moveable Feast


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送