2006.3.10/「ありがちなお話」
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離れないと言ってあげればよかった。嘘を吐く事はそんなにうまくはないと思っているので(すくなくとも彼よりは)、いつか離れるかもしれないと零崎軋識は真実をこぼした事がある。いまそれを後悔していた。とてつもなく悔やんでいた。嘘でもよかったのだ。一時の気休めでもよかったのだ。たった数秒だけでも喜ばせてあげればそれでよかった。たった一瞬でもかなしませてはいけなかった。それだけは決してやってはいけない事だった。
そうすればいまこんな事にはならなかった、というわけではない──こうなってしまったから、そんな後悔をしていたのだ。まさに後悔という文字はそのままの意味を表していると思う。限りなくどうでもいい事だが。
ただひとつ嘘を吐けば、きっと笑顔がひとつ増えただろう。
なぜその程度の事ができなかったのだろう。
青の少女の名を口に出さなくてもよかった。そんな事を伝えなくてもよかった。それよりも嘘をささやいてあげればそれでよかったのだ。
愛していた事に変わりはないのだから、
ただ永遠が無理だったというだけで。
「レン、」
名前を呼んだ瞬間に、忘れていた涙がこぼれた。
何てありきたりな別れだろう。
「………ごめん」
陳腐な言葉でも吐き出さずにはいられなかった。
たったひとり、彼だけを愛する事ができたならば。
きっとそれ以上のふたりの幸福はなかっただろうに。
血と傷とこの腕に抱いた君と
二度と流れぬ血。二度と癒えぬ傷。
二度とこの腕に抱けぬ君と、永遠にこの腕に抱く君。
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