2005.12.31/「夢のような話」






 ぼくは玖渚の家に遊びに行っていた。いつものように行き、いつものように玖渚はパソコンをいじっていて、いつものように「いーちゃん、ご飯食べたい」と言われたので、いつものようにご飯をつくってあげた。いつものように彼女は食べ、いつものように話をした。
 そしてぼくはいつものように帰ろうとした。
 けれど、そこでいつもと違う事が起こった。
「いーちゃん」
 玖渚がぼくが靴を履いたところで、ぼくを呼び止めた。
 ぼくはちょっとだけ驚いて、振り返る。
 玖渚がそこら立っていた。髪を下ろした玖渚は、その青を空気に流し、微笑んでいた。
「ちょっとお話しよう」
「話?」
「うん」
「何だ、どうしたんだよ。何かあったのか?」
「ううん。気まぐれだよ」
 彼女は自らそう言い、首をちょこん、と傾げた。
「あのね。僕様ちゃん、ちょっと不思議だったんだ」
「何が?」
「いーちゃんは何でいつも、またな、って言うの?すごい不思議だったんだ。だって、いーちゃん、いっつも死にかけるのに。僕様ちゃんだって明日にはいないかもしれないのに」
 本当に不思議そうに、玖渚は言った。
 こどもが、わからない、とでもいうように。
 ぼくはすこしだけ──自分が死にかけるという事はさておいても、彼女が明日にはいないかもしれないという言葉に──動揺した。ほんのすこしだけだ。
 数秒だけ口を閉ざした。そして開いた。
「お前にまた会いたいって思うから」
 驚くほど素直に、意外なほど率直に、ぼくは答えていた。
 それから言葉は続かない。
 彼女に戯言は無意味だからだ。
「わかったよ」
 玖渚はうなずいた。
 ぼくは無意識のうちにうつむけていた顔を上げた。
 彼女は変わらず笑っていた。
「またね、いーちゃん」

















「────友」
 名前を呼んだけれどまにあわず、
 扉は閉ざされた。










さようなら、と手を振ったのは





きみだった。






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