2006.1.2/「明確な答をけれど一生口にはしない」
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少年は、その可愛らしい少女を愛していた。
少年と少女は家出して、ふたりで生きようと決めた。まだ幼いながらも頭のいい彼が、ある意味博打のようなその危うい事を実行する決意ができたのは、その少女のおかげだった。彼は少女を愛していたから、決心できた。
少女は感情豊かとはいえなかったが、それは少女の境遇ゆえだったのだと少年はわかっている。少年は死神にはならなかった。なれなかった。けれど少女の兄になりたいと思っていた。
少年は決意も決心も容易くできたが、はたして少女の兄になれたのか、少年はわからなかった。
「萌太はバカなんです。賢いけどバカなんです。いつもいつも、兄であろうと、そうしていたような気がします。わたしにとって、萌太はいつだって兄≠セったのに、萌太は自分ではそう思えないときがときどきあったらしいんです」
闇口崩子は病院のベッドのうえで、淡々と言った。
その傍らに椅子を持ってきて座っている女性──浅野みいこは、それを黙って聞いていた。この少女は返事など求めていない。
「家業が染みついていたんでしょうか。そのせいで萌太は自信が持てなかったんでしょうか。わたしの兄にはふさわしくないと──わたしの兄にはなれないと、そんな事を思っていたんでしょうか」
バカです、そう崩子は言った。
「バカです。ほんとうにバカです。わたしはたとえ、萌太が赤の他人でも、兄だと言えました。家族だと断言できました。家族は故郷にいたけれど──わたしの家族は、兄である萌太だけだったんです」
「萌はわかっていたよ」
みいこは答えた。これは言うべきだと思った。
「萌は、崩のたったひとりの家族で兄だとわかっていた。わかっていたから、必死だったんだろう。兄として、お前を守ろうと、いつもつよくあろうと」
少女はその言葉に笑った。
それはとてもやさしい微笑みで、だから、たとえようがないほどかなしげだった。
「知っていますよ。──わたしの兄ですから」
それでも少年は少女を愛していた。
兄として、家族として、少女を愛していた。
たとえば少女が赤の他人でも、少年は彼女を守ろうとしただろう。
たとえば少女が極悪の犯罪者でも、少年は彼女のそばにいただろう。
死神が愛した暗殺者は、少年を救い、そして離さない、唯一の存在だったから、
だから少年は少女を守った。
だから少年は少女のそばにあり、兄としてこの肉体も生命もすべて彼女を救うためにいつか捨てようと、簡単に決意し、決心した。
少年は、その可愛らしい少女を愛していた。
兄として、彼女をずっと愛そうと、少年は少女に誓っていた。
死神を捕らえたのは
とうの昔に知っていた、ふたりはずっとしあわせだった事。
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