2006.2.23/「キス」






 零崎がぼくの唇にキスをしてきた。ぼくはぼんやりとそれを受ける。受ける、というか、そうせざるをえないというか、それ以外の方法をぼくは知らなかった。零崎の舌が何かの義務のようにぼくの口内を撫でて、けれど何の情欲(笑える)を煽る事もなく離れていった。
 間近で零崎と向き合う。
 零崎は身を乗り出して、膝立ちになって手を床の上に置き、ぼくを見ていた。ぼくは姿勢を変えずにただ座っている。せまいアパートの中で零崎の存在だけがいまのぼくの世界だ、そう考えてそれはとても哀れな思考だとぼくは悟る。それこそ戯言だと感じて、いや傑作かな?と思った。
 不意に零崎が笑ったのでぼくのそんなとりとめのない思想はおわった。
「なぁ」
「何だよ」
「自分の映ってる鏡にキスした事あるか?もちろん鏡に映る自分の唇に」
「そんな事あるわけないだろ」
「だよな。でもいまそんな事してる。これってかなり笑える話じゃねぇ?」
 笑えないよ、とぼくはため息を吐いた。実際笑っていなかったし、真実笑えなかった。まぁ、事実なのだが。
「俺さ、いま考えてたんだ」
「何を?」
「お前の事、誰かに訊かれたら、俺は何て言うだろうなーって」
「何て言うんだ?」
「関係性を一言で表すとしたら。たぶん友達だよな、俺たち」
「それはそれで気色悪いな」
「でも他人でも恋人でもねぇだろ?もちろん、家族でもないし」
「たしかに消去法でいくとそうなるな」
「うん、消去法でやった。他人ナシ、恋人ナシ、家族ナシ。そうなると友達だよな?」
「ただの知り合い、って方向は?」
「それもねぇだろ。知人ナシ」
「仲間」
「仲間ナシ」
「親友」
「親友?何それ、傑作」
 いちばんありえねぇよ、そう言って零崎がまたキスしてきた。今度は触れるだけのものが数秒。ぼくの唇は乾燥していた。それに何かが触れるのはとても気持ちが悪い。人間の一部なのだから、なおさら。
「………友達にキスってするものだったっけ?」
「俺はそう教えられた事ねぇな」
「ぼくもだよ。気が合うね」
「ああ、最悪な事だ」
 零崎はおもしろそうに笑って、三度目のキスをしかけた。
 三度目でようやっと、ぼくは零崎は目を閉じた。























「………気持ち悪いな」
「ああ」
 そう言うの待ってたんだぜ、と、零崎はうれしそうに笑った。










きっと誰もこれを友情だとは
言いはしないのにね





ではそれ以外の言葉で言い表してみなさい。






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