2007.8.26/「わかっているがゆえに」






 俺の明楽に対する執着はおかしいのだと言う。それは明楽が俺のそばにいるときも、明楽が死んでそれでもなお生きているときも、変わらずに言われたことだった。特に明楽の死後など、なぜ架城明楽は死なないのかと散々いぶかしまれ問われたことがある。
 だがそれを言うならば明楽の俺に対する執着だっておかしかったと思う。それを知っているのは近くにいた純哉くらいだろうが、しかし純哉が思っている以上に明楽は俺に執着していた。そして俺も明楽に執着していた。俺たちはおかしかったし、今もおかしい。明楽が死んでも変わらないし、もし逆に俺が死んで明楽が生きていたとしても変わらなかっただろう。ずっとずっと俺たちはおかしいのだ。
 お互いが唯一だから、というのがひとつの理由だと俺は思う。この世界でたったひとりの同類。なくしても代わりはどこにもいない。執着しない方がおかしい。たとえ相手を憎んでいるとしても、あいしていないとしても、それでも執着する。俺たちは、そんなふうだった。






























「他人事みたいに言うよね、自分のことも、僕のことも」
 ある日ホテルの一室で明楽がこぼした言葉に、俺はもっともな返事をしてやった。
「少なくともお前は他人だろう」
「つめたいなぁ西東ちゃんの言い方は」
「事実だ」
「僕が西東ちゃんの弟だったからそんなこと言わなかった?あ、今言ってて思ったけど、いいかもね、僕が西東ちゃんの弟って設定。近親相姦だよ。お兄ちゃんを犯しちゃうんだよ。わぁ、ちょっといい」
「お前が弟ね……ぞっとするな」
「まぁ確かに。笑っちゃうね」
 へたな冗談だったよ、と明楽は素直に認めて、笑った。
「でもさ、本当に。自分のことはともかく、僕のことを他人事みたいに言わないでほしいな」
「何だ、嫌なのか」
「うん、嫌。そりゃ他人だけど、でもそんな言葉で括れるほど、僕たちは普通じゃないでしょ?」
 確かに、否定できないことだ。明楽は俺の左隣に立ったまま、わずかに俺の肩にそちらの肩をぶつけてきた。それから首筋に手を伸ばしてくる。左腕で俺の首を絡めて、耳元でささやいた。
「世界の終わりのためにこうして一緒にがんばって、キスして、セックスして、こんなに執着して、この世でお互い唯一の存在なんだよ。他人だけど他人じゃないでしょ、もう僕たちは」
 そこで一度言葉を切って、確かめるように、念を押すように、言った。
「とっくにイカれてるんだよ」
 お互いに、ね。
 そう言いながら、耳の裏に舌を這わせる。その行為に声をかける前に唇に指を押し当てられた。しー、と悪戯っぽく窘められ、俺は眉をひそめた。
 その指を舐めるか噛むかしてやろうかというときには離れている。こういうところが、架城明楽だ。
「そうじゃなきゃ、この僕が西東ちゃんに欲情するわけないじゃない」
「明楽、」
「失敗≠オて、ちょっと落ち込んでるでしょ?慰めてあげるよ。また明日からがんばろうね、この物語を、読み終えるために」
「……確かに失敗はしたが、落ち込んではねぇぞ。俺が失敗というものだけでいちいちへこむように見えるか?」
「まぁね、そりゃそんなことないってわかってるよ。僕と西東ちゃんのつきあいだもん。ただいい誘い文句が思いつかなくてさぁ」
 言いながら一度首から腕を離して、そのまま俺の手をつかむとにっこりと笑う。
 明楽はいつもこんなふうだった。笑い、一方的にしゃべり、俺を求める。
 そうして、執着、しているのだ。
「ま、いいかぁ。僕と西東ちゃんの間でムードとか求めてもね?それこそ笑っちゃうよね?」
 俺の手を取ったまま、明楽は言う。
 なくした成功を惜しむ気持ちは、おそらく明楽にもない。目指すのはなくした成功ではなく、未来にある成功だからだ。
 またこの手とともに、世界のおわりを見るために生きていく。
「───じゃ、そんなわけで、西東ちゃん」
 わずかに低くなった声音で、すでに誘い文句ですらない宣告とかしたものを、明楽は俺にささやいた。
「これから西東ちゃんのこと、犯すね」






























 ───そして俺は、この手に縛られている。
 明楽が望み、俺が望んだこと。
 それも理由のひとつだと、俺は思っている。










僕等は何度も過ちを犯すよ





その度にきみを確認する。
そうしてきみを認識する。






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