※戯言、狐さん(→明楽さん)
何度も繰り返した失敗の度、必ずやっていた事は──笑われるかもしれないが、架城明楽に語りかける事だった。西東天は絶対的にそうしていた。
彼にとって、それは必要な事で、またやらなければならない事だったのだ。
無論、架城明楽の答はない。
答が欲しいと、思わなかったとは言わない。
しかしなくてもよかった。
(俺は人間だ)
そうわかっていた。
だから。
「───逝くな」
たった一言だけそうつぶやいた。
架城明楽はそれに何か言葉を返したようだった。無理だ、とか、そういう意味合いだったかもしれない。西東天にはわからない事だ。
ただ彼が架城明楽に遺したものはその言葉だけで、もう少し気の利いた言葉は言えなかったのかと今でも思う。それがどんな言葉かはわからないが、逝くな、など、死ぬ人間には重荷以外のなにものでもないだろう。
それでも最期、笑っているように見えた。彼もまた死にかけていた身なので、記憶は確かでもまぶたの裏に残る映像には曖昧な部分がある。架城明楽は笑ったのだろうか。それとも何の表情も浮かべてはいなかったのだろうか。
あきら。
自分の唇がそう動いたことで意識が現実に戻った。ゆっくりと目を開けて、ああそうかここに明楽はいない、と認識する。
(……また、か)
かすかな落胆、けれど希望は失っていない。この世界の終わりを見る希望だなんて、果たしてこの言葉は正しいのかとどこかで思うが、思うだけだった。考える必要などない。
欲しいものはただひとつだ。
それ以外の思考は必要ないだろう。それに今は、思考できない、と思う。
(おまえはいない)
だから、それしか考えられない。
(ふれることはない)
いつか終わってしまうまで。
お前に会うまで、きっと他の思考はなくなってしまっている。
前にお題用に書いて途中で放棄していたんですが、その間に人間2で明楽さんが登場なさったので没となりました。そんなわけでものすごく半端なおわりですみませ…
2007.8.25