「さよなら」
「────L」












 大学で、ふたりはよく行動をともにする。
 たいてい欠席が多いのはLで、それは捜査のためだと月は黙認している。早退をするときも、「捜査?がんばってね」とか、彼が欠席した翌日は「大丈夫?」とか、無難な言葉をかけていた。彼がいないときはいないときで、月は大学生活を楽しみ、家ではノートを活用したし、彼がいるときは言葉の駆け引きを楽しんだりした。Lは頭がいい。大学の授業についても、他とは比べものにならない質の高い会話ができる。
 そして、ある授業の後、勉強内容について話しているときだった。Lの携帯電話が鳴り、彼は失礼、と澱みのない声で言うとひとことふたこと言葉を口にして通話をおえた。その言葉は月には聞き取れないほどちいさなもので、同時に周囲の学生の声を月は憎んだ。
「───すみません、夜神君。次の授業は欠席します」
「捜査?」
「野暮用です」
「そう」
 残念だな、と、惚けるLに惚けてみせる。この話はまた今度、そう言って去ろうとするLに、月は微笑みかけながら申し出た。
「門まで送るよ」
「いえ、けっこうです。授業に遅れますよ」
「流河、」
「大丈夫です。それでは、また明日」













 ────瞬間。











 月はおおきく目を見開いた。
 それは一瞬だけ、Lにはばれなかったはずだ。それでも月は心臓が止まるほどの衝撃に襲われ、驚愕に息を止めた。背を向けるLを見送る月の背中に、汗が一筋伝う。それほどに。
(また明日と、)
 何と、普通に言うのか。
 それが当たり前とでもいうように。
 キラと疑う男に、平然と。









「L」
 無意識のうちに、月はそうつぶやいていた。
 それが奇跡的に耳に届いたのだろうか、Lが振り向く。その顔はいぶかしげだった。Lだなんて、そんなふうに呼ぶなんて事は暗黙の了解で決してしなかった事だ。彼が何か疑問を口にする前に、月はその目を見据えてはっきりと告げていた。


















「────さよなら」
 しずかな言葉に、Lはそのときはじめて無表情を崩した。
 彼と出会って、それははじめて見る、とても自然なおだやかな笑みだった。
「………ええ、さよなら」






                       2005.9.28執筆/2005.8.6再掲載
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