あたしの初恋の話。

 まるで恋のようだった。









 手錠に繋がれた手を見て思う。隣で眠る青年を見下ろして、Lはひそやかに思った。ワタリにさえ言わない、それはトップ・シークレットだった。
 おそらくLは、夜神月に恋をしていた。
 しかしそれは、夜神月が夜神月であったときの話だ。
 こんなふうに、この男と手錠で繋がれた生活を送る事を決めてから、文字通り四六時中いっしょにいたが彼≠ヘ彼≠ナはなかった。
 監禁中に何が起こったのかわからないが、ある瞬間を境に、彼は豹変した──ほんとうに、別人になってしまった。出会った頃、大学生活をともにした彼、捜査本部で犯人を追いかけた彼、それといまここにいる彼はあきらかに違う。
 彼はもどらない。
 あの目を見て話すとそう思う。
 正直、Lは少々うんざりしていた。たしかないまの月も、以前の月と変わらず頭脳は明晰、天才と謳われるが、以前のかけひきめいた──不謹慎だがゲームのような──刺激はない。
 キラを捕まえる事を第一としているものの、Lにとってのキラは夜神月で、彼を捕まえなければ何もおわらないのだ。
 Lは彼がキラだと確信している。
 だからこそ、久々の自分自身以外の天才≠ニ勝負をし、そして勝利を勝ち取りたかった。
 だが、いまの夜神月相手ではそれは叶わない。
 だからうんざりする。彼はもどらない。もどってくれない。奇跡でも起こらない限りもどらない。
 彼がもどるのなら命を捧げる気はないが、真実なら捧げようとさえ思うのに。
(あなたを捕えて、私は正義を証明したい)
 そんなエゴイストの望みを、わけのわからないままに打ち切り、いまは別人となりおだやかに眠る青年。
 不意に殺したくなって、Lは手錠を見下ろした。
 身を屈めて、血を噴出させるかわりに手錠にくちづける。
 それは苦い血の味がした。













(私の恋していたあなたはどこに行ったんでしょうか)
 ……ああ、そんなラブ・ソングがあったような気がする。






                       2005.9.29執筆/2005.10.10掲載
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