ネオンの発狂に溺れる
女を抱いた。
ミサだ。彼女を抱いたのははじめてだった。ひさしく女性とそんな時間を過ごすのはひさしぶりだったので新鮮だった。しかしそれだけだった。なぜならここ最近ずっと、抱くのは男だったからだ。
やわらかいわけでもなく、抱き心地がいいわけでもない、けれどそのつめたい肌を熱に染める事が快楽に繋がった。触れれば敏感に反応するからだを抱きしめるのはたしかに気持ちよかった。
彼女を抱いた後、ねむる彼女を放って月はシャワーを浴びに行った。やたらとひろいバスルームに入って、お湯を出そうとして間違えて水を出した事にすぐに気がついたが、なおす事もせずにただ月は冷水をその身に浴びた。
つめたい水はすぐに彼のからだを冷やしたが、かまわない。
(空虚だ)
快楽を得られないセックス。
触れても満たされないてのひら。
(………バカか、僕は)
つめたい水にあたまが冷えると思ったのに、彼女を抱いているときずっとあたまにあった事は離れなかった。
月はただ目を伏せて、一心に水に満たされようとした。うつむいて浴びていると、まるで冬の夜の海に溺れているような錯覚を憶える。
(お前のいない人生は空虚だ)
胸中でつぶやいた言葉の愚かさに笑みをこぼして、月は自分自身の両手のてのひらを見下ろした。水を浴びて濡れる真っ白な手。
この手で殺す事はできなかったけれど、長いあいだ月を苦しめ、正義に逆らった男は結果的に死んだ。
死んだのだ。
(お前がいなくなった)
この世界の、あまりにも空虚な濁った色。
見てられなくて目を伏せる。ただ思うのは彼の姿。おそらく明日の朝には忘れ、けれど夜に目を伏せる度に思い返すだろう、幾度も抱いた人間。
まぶたの裏の、彼のいる世界を思い浮かべて吐息する。
………まぶしい。
きらきらひかっている。
(ああ、L、)
お前のいない世界はまぶしすぎて、目も開けていられない。
2005.10.04執筆/2005.10.10掲載