おしまいのさいご

 月くんの知らない事です、









 ひそやかな、それは隠し事で、秘密だった。内緒話、というものだ。
 なぜそのとき僕がそれを聞いたのかわからない。偶然、竜崎といたのが僕だったからだろうか。それともいつもの、ただの気まぐれだろうか──わからないけれど、彼は僕に言った。
「いつか私は死ぬでしょう。それは必ず月くんが関わっている」
 聞き流してくださってけっこうです、と、彼は僕が返事をしようとする口をあらかじめ封じた。ずるくて賢いひとだと思う。僕はその誓約を破れない。
「月くんがたとえ知らなくても知っていても、必ず彼は私の死に関わっている。彼と私の人生が関わった瞬間から、そう決まっているんです」
 運命論のようだ、と思った。竜崎が口にするには似合わないと思ってしまう、そんなふうなもの。
 でも彼が口にすると何よりもうつくしいという、何だか夢みたいな事も同時に思ってしまった。
「松田さん、これから私が口にするのは、月くんの知らない事です」
 声には出さずうなずいた。そんな僕の様子にか、竜崎はくすりと笑った。
 竜崎は笑うと、こどもみたいにとても可愛らしい。いつも思っている事を、いつものように僕は思った。







「私は彼を愛しています」







 そしてその言葉に、僕は目を見開いた。
「……内緒ですよ」
 誰にも言わないでください。
 たとえ私が死んだ後も、決して口にはしないでください。
 竜崎はそう僕にささやいて、その次に不意にやわらかなものが唇に触れた。それが竜崎のものだと気がつく前に彼は離れて、部屋を出ようとしている。
 僕は声をかけようとして、けれど声が出なかった。音にはならなかった最後の言葉を、彼は知っていたのだろうか──その証拠とでもいうように、彼は扉を開き出て行く直前、振り返った。
 悪戯っ子のように微笑んで、竜崎は唇に人差し指を当てた。
 秘密ですよ、と笑って、














「………あなたを、愛してますよ、」
 僕のつぶやきはきっと彼に知られていたのだろう。
 だから彼はあんな事を言ったのだろう。
 その痛みに僕は涙を堪えた。
















 ───愛していますよ。
 あなたが思うよりもずっと、……あなたを。






                      2005.10.08執筆/2005.10.10掲載
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