電源を切ってください。

 彼女の鮮やかな痛みの名前。








「キラが憎いです」
 泣きながら彼女は言った。
「あのひとは、悪人なんかじゃなかったのに──刑期をおえたときにまた会おうって、約束してたのに」
 キラがあのひとを殺したんです。
「ゆるさない、……キラをゆるさない」










 ───それはある番組のインタビューだった。
 街の人々の声、というコーナーで、顔も声もモザイクをかけた女性はキラ批判派のなかに入っていた。キラの被害者のなかに、懲役を受けていた彼女の恋人がいたらしい。
 ───悪人じゃなくても、彼は罪人だった。けれど償えばゆるされてもいいのではないか?罪人でも、彼は人間で、命を持っていた。奪っていいのか?
 切々と語る彼女を、Lは相変わらず爪を噛みながらテレビ越しに見ていた。彼女のからだが嗚咽にふるえるのを、Lはまばたきもせずに凝視していると、不意に彼女が真っ黒になった。
「───おもしろい?」
「ええ、なかなか」
 あなたが止めるまでは、と言葉を続けると、リモコンを片手に夜神月は断りもなく(彼にしてはめずらしい事だ)Lのとなりに座った。やわらかいソファに身を沈めて、リモコンをいじりながら月は言った。
 お互い視線を合わせる事なく、ただブラックアウトしたテレビの画面に映る相手を見ていた。
「キラやLに関する番組を見るのは嫌いなんだ」
 嘘くさくて、そう彼は嘘みたいにきれいすぎる微笑を浮かべた──Lはテーブルのうえに置いた角砂糖をひとつ手に取った。口に運びながら答える。
「参考になりますよ、彼らの声は」
「そうかな、僕は逆に嫌だな──彼らの感情は捜査をするうえで重くなる事がある。竜崎はつよいね」
 ……さすがだよ、
「彼らのために捜査をするも同然です。月くんがそんな事を言うなんて意外ですね」
「そうか?はやくキラを捕まえて、彼らを安心させたいだけだよ──竜崎みたいに、耳を傾けられるほど大人じゃないってだけ」
「警察官になりたいんでしょう月くん」
「……そうだけど?」
「まず彼らの声を聞く事が、警察官は最初にするべきだと思っていました」
 ───あなたは違うんですね、
「……じゃあ、僕は竜崎みたいにつよいひとを目指すよ」







 彼らの真の声を聞けるように。
 耳を塞ぐ事のないように。










「……テレビをつけてもいいですか」
 月くん、名前を呼ばれて微笑した。
「明日にしてくれ」
 答に、あなたはやさしいひとですね、そうおだやかな声で言われた。




                      2005.10.14執筆/2005.10.15掲載
template : A Moveable Feast
















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送