見逃したラブシーン



(………メテオ)
 昼間にも関わらず空を重苦しくさせる暗黒を見上げながら、レノは神羅ビルのある部屋のソファの傍らに立っていた。
 その部屋にはレノと、ソファのうえで眠る青年しかいない。
 世界は騒がしくて、おそらくいままでのどんなときよりも、雑音にまみれていたと思う。
 神羅はそんななかで、それでも世界のために起動していた。ともすれば陥落してしまいそうなこの組織を、ひとり細い肩に乗せて支えているのは、いまレノが見下ろすなかで眠る──ルーファウスそのひとだった。
 このひとが社長という地位に就いているあいだに、世界がこんな事になるとは、誰が思っただろうか。
「できれば、あんたは平和な世界で生きてほしかったんだがな、と」
 見下ろす先、ひとりごとにも気づかずにわずかな休息の時間を眠りつづけるルーファウスに、レノは微笑みかけた。
 ───彼の父が、約束の地を求め始めたときから、おそらくそんな事は叶わない事になっていたのだろうけれど。
 それでも、青白い顔色で、細くなったからだを必死に動かしている彼を見る度に、そう思わずにはいられない。
「な、社長?」
 あんたいま、どんな夢見てるのかな、と。
 どうでもいい事をひとりで話しながら、窓から見えるメテオを見つめる。
 星を滅ぼすから憎いというよりも、ルーファウスを苦しめるから憎いという想いの方がレノはつよかった。
 ルーファウスは神羅の頂点に立っている。
 うつくしい世界を、彼が支配すればいい。それくらいは叶えさせてほしいのに、世界とは何と理不尽なのか。
(叶わないだけじゃなく、)
 ────たいせつなものをなくした。
 タークスの主任であるツォンは、古代種の神殿へ任務で赴いた後、行方知らずとなった。
 崩壊した神殿を見れば、死体は見つからずとも死んだと考えるのが妥当だという事で、ルーファウスはツォンは死亡したと確定したけれど。
 ───いくら平気な顔をしても、平気なはずがないのだ。
「………ン、……」
 不意にルーファウスが身じろぎして何かうめいたので、レノは思考を打ち切って上司に目線をもどした。
「…………ツォ、…………」
 ちいさな、呼吸に紛れてしまいそうなそれをたしかに聞き取って、レノは痛ましげに顔をしかめた。
 ───きっと、ツォンは生きている。
 そんな、根拠のない慰めをかけるほどバカではない。
 それでもレノはどこかで信じている。タークスの主任であり、ルーファウスが絶対の信頼を置く部下であるツォンが、そうそう簡単に死ぬはずがない。
「……大丈夫だぞ、と」
 そっと手を伸ばす。きっと起きているときは振り払われるそれも、眠っているあいだなら平気だ。
 臆病でずるい事だとわかっていながら、レノはさら、としたルーファウスの金髪を撫でた。寝息を立てる彼が、せめて悪夢を見ていないように。そう祈りながら。
「何もかもうまくいく」
 メテオは消えて、世界は救われて、あんたも俺もツォンさんも皆生きてる。
 神羅はずっとあんたのもので、世界はあんたが生きてる限りずっとうつくしい。
「守ってやるから」












 祈りにも似た言葉とともに誓うように、しずかに額に唇を落とした。









2005.10.10 FINAL FANTASY Z レノ×ルーファウス
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