ばったり。
「あ」
そんな効果音と重なった声とともに、ふたりは同時に硬直した。
週末の浮き足立った神羅ビルのなかでも、一方のこの会社の副社長であるルーファウスは働き通しだったし、もう一方のタークスのエースであるレノもおなじだった。
だから、こうしてふたり、働いている事に不自然はないけれど。
「レノ」
ルーファウスがぽつり、と名前を呼んだ瞬間、レノは何も答えずに上司の腕をつかむとそのままひきずるようにしてずんずん廊下を歩き出した。
こらバカどこに連れて行く!という非難の声はむなしく響いただけで、夕暮れにちかい神羅ビルの廊下を人目も気にせずレノはルーファウスを引き連れて早足に進んだ。
やがて辿り着いたのは、その階の隅にあった資料室。
ばたんと扉を閉めて鍵をかけたかと思えば、つかんだ腕をそのまま引っ張って、目を見開くルーファウスをレノは抱きしめた。
「おいッ……!」
いまは使われていないのだろうか、埃っぽい部屋で力強く抱きしめられて、息もできない。
「うわー、副社長だ……」
耳元でささやかれた声の熱さにどきりとする。ぎゅ、とますますつよく抱かれて、そのつよさにルーファウスはたまらなくなって肩に顔を埋めた。
「やばいよ、……ひさしぶりすぎ」
「………うん」
それは事実なので、否定もせずにただうなずく。そうして目を伏せた。
───忙しい週を重ねて、気がつくとずっと会っていなかった。
ルーファウスが長期出張に出て、帰ってきたかと思えばレノが任務でずっと本社にもどってこない、ずっと、そんなすれ違いばかりだったのだ。
ふとした時間の隙間に、思い出す事はあったけれど。
電話やメールをする余裕もなく、……ただ想うだけだった。
「あーもう!」
「?」
しばらくその体温を黙って感じていたが、不意にレノが叫ぶようにうめいたのを聞いて目を開く。
本当に苦しいくらいに抱きしめられて、おいレノ、と声かけるが、部下はかまわずに言葉を続けた。肩に顔を埋められる感覚に、ただ純粋に驚く。
───この男がこんな、あまえたような仕草をするなんて。
「………会いたかったぞ、と」
低いささやきに、ルーファウスの心臓ははねあがった。
ぼっ、と火がついたみたいに体温が上がるのを感じる。顔を見られていなくてよかったと思うと同時に、抱きしめられてこんなに密着しているのだから隠しようがないと思う。
「レ、ノ」
「まだ俺、いちおう仕事中なんだがな……と」
する、とレノの手が落ちて、腰に手が回される。レノが顔を上げて、ルーファウスと目を合わした瞬間、その瞳に見た感情にルーファウスは息を呑んだ。
───それは、たしかな欲情。
「……あのさ、副社長」
「………何だ」
「ものは相談なんだけど」
「いいぞ」
聞く前に肯定した瞬間、くちづけられた。
ちかくの本棚にどん、と背中が押しつけられるのを感じながら、最初から口内に侵入して歯列を割る、脳の芯を刺激するくちづけを必死に受け止めようとする。
「はッ……ふ、ンッ……!」
「………副社長、」
「んッ……れのッ……」
力が抜けて、がくんっと落ちそうになる膝をレノの腕がからだごと支える。縋りつくように背中に腕をぎゅ、とまわして、ああスーツが皺になる、と霞みゆく思考の隅で思った。
「やばッ……、」
「な、にがっ……!んッ……!」
切れ切れの会話のあいだにもキスが繰り返されて、レノの手が肌に触れてくるのにからだが熱くなる。
───ああ、もう押し殺せない。
「とまらな、そ……ッ……」
ぴちゃり、唾液の絡まる水音にまた煽られる。
「この、バカ……」
引き寄せてキスをして、かすれる声で何とか紡いだ。
「……とま、るなッ……」
衝動のままのキスは、熱が高まった。
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