詐欺師の堕落理論



 触れた体温の熱さ、意識が朧だと証明するように瞳がさまよう。
 それをどうしても向けておきたくて、手を伸ばした。頬に触れてふかくキスをすると、彼は安心したように息を吐き出して、かすれたちいさな声で名前を呼んだ。
 その響きに背筋に言いようのない感覚が走る。
(ずっとこれをまってた)
 こんなふうに名前を呼ばれるのを、
(───ずっと)


















 す、と伸ばされた不埒な手を見もせずに払う。
「……つれないぞ、と」
「黙って仕事しろ」
「俺の仕事じゃないのになぁ……」
「お前が手伝うって言うからさせてやってるんだろうが!」
 文句を言うなこのバカ、と暴言を吐くルーファウス神羅に、タークスのエースはデスクを挟んで座りながらため息を吐いた。
「あんたが遅いからだろ?ルーファウス様」
 その一言で、ぐ、と言葉に詰まって目をそらすと、ルーファウスはしばらく黙って書類に向き合う。
「………悪かったって言っただろ」
 やがてぼそり、とこぼされた、とても素直とはいえない謝罪に、レノは笑った。
「せっかくの週末デート、今日はもう無理かな、と」
「まだ今日がおわるまで一時間あるぞ」
「あんたは明日も朝から仕事だろ?坊ちゃんに無理させちゃいけないからな、と」
「何だ、無理させる気だったのか」
 ふざけたような言い方に思わず笑って、書類を書く手を止めて顔を上げると、ルーファウスのために整理していた書類はすでに完璧に放置して──レノは椅子に背をあずけ、リラックスした状態で微笑を浮かべていた。
 仕事のときはとても浮かべないような、そんな笑みだ。
「たぶん、寝かせられなかっただろうな、……と」
「………………あ、そ」
 誘うような目に体温が上がった気がして、無理矢理顔を書類に引き戻す。しかしその瞬間、向かいの男の手がぐいっと伸びて、ルーファウスの前髪をさらりと撫でた。
 やさしい仕草に、ペンが動かなくなる。
「あのさ、俺、思うんだけど」
「……何だ」
「この調子じゃ、どうせ仕事おわらなそうだし」
「何が言いたい」
「だったら、デートした方が効率的だと思うんだけどな」
「効率って、何の」
「俺とあんたの時間」
 ふ、と青い瞳が上がり、レノを捉える。
「───レノ」
「あ、やばい、お説教?」
 ごめんね、そうふざけたように、けれどにっこりと笑って謝ってみせる。
「でも、俺があんたにそれくらい惚れてるって、わかってるだろ」






 ───なぁ?






 挑戦するような笑みを、ルーファウスは真っ向から受け止めた。
「あんた、俺とデートしてくれるし、キスもさせてくれるし、……セックスもさせてくれたし?」
 レノが言えば、あっさりといいぞ、と返ってくる答。
 拍子抜けするほど簡単に、彼を抱くのは簡単だった。
「そういうのも俺が望んでた事だけど、でも俺、言ったよな──あんたに惚れてますって」
 一度は引っ込めた手を、また伸ばす。
 今度は、その指先は頬に触れた。ルーファウスがその指先をちらりと見て、けれどすぐに何でもない事のようにレノに視線をもどす。
「だから、俺は、あんたの気持ちが聞きたいわけだぞ、と」
 す、と悪戯のように頬を滑って、指先が唇をなぞる。
 わずかにかわいている、かたちのいい唇。
 何度もくちづけたそこは、しかしいまだに、レノの想いに答えた事はない。
「───社長」
「私もお前に惚れていると言ったら、どうする」
 促すように呼ぶと、何の感情も込められていない言葉が返ってきた。
 レノはすかさず答える。
「一生離さない」
「なら、惚れていないと言ったら」
「部下としてあんたがゆるすまで守り続ける」
「どっちにしてもここにいるんだな」
「その通り」
 で、答は?
 そう笑うと、ルーファウスは微笑をこぼした。
 いつも彼が浮かべるような、堂々としたきれいな笑み。
「……レノ」
「何」
「抱いてくれるか」
「………それが返事?」
 何だよそれ、と、指先を離す。
「私が何とも想っていない相手に、やすやすと抱かれると思っているのか」
 けれどその瞬間にこぼれた不機嫌そうな声に、不自然に手が、宙で止まった。
「……まったくお前は、俺をおとすのが好きだな」
 低い声とともに、いらだちに任された、ルーファウスの手がレノの胸倉をつかみ、引き寄せた。













 そして唇にささやかれた望んでいた言葉に、レノはまぶたを下ろしながら笑った。









2005.11.14 FINAL FANTASY Z レノ×ルーファウス
template : A Moveable Feast
































SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送