「なぁ、もう、痛まない?」
あきれたようにルーファウスは笑って、レノの言葉を一蹴した。
「当たり前だ。……心配性だな、お前は」
もう聞き飽きたぞ、とあっさりと言うルーファウスに、レノはちょっと顔をしかめた。テーブルを挟んだ向かい、ソファに座るルーファウスをにらみつけるように見る。彼は笑いながら紅茶を飲んでいた。そんな仕草もやっぱり優雅だ。
どこかで見た事があるような光景だ、そんな事を思いながら言う。
「あんたを心配するの、悪いかよ、と」
「いや、喜んでる」
「………性格悪ぃー」
煙草吸っていい、と断ると、ああ、という答。ルーファウスはいちいち断らなくてもいいと言っていたが、すでにこれはレノのくせだった。何となく、言わなければならない気がする──そんな義務感。
「だってさ、星痕って、痛いんだろ」
「…………まぁ」
「ほんとにもう、何ともないのかよ」
「大丈夫だと言っただろう」
はぁ、とため息を吐いて、ルーファウスは紅茶を置いた。足を組んで、ゆったりとソファに体重をあずけながら、言う。
「俺の言葉を信じろ」
「無理」
「………部下失格だなお前」
「社長に言われたくありませーん」
「どういう意味だそれ」
「べつに」
「何怒ってる」
「怒ってねぇよ」
「レノ」
窘めるような口調に、レノは目を上げてルーファウスを見据えた。
「………俺が、無理をしたと怒っているのか」
「それもあるけど、結果オーライだぞ、と」
「なら何だ」
星痕は消え、思念体もセフィロスもいなくなり、星はかつての平穏を取り戻した。
万事解決だ。ルーファウスはこの結果に満足していたので、レノが不満そうに見てくる理由がほんとうにわからなかった。首を傾げ問うと、レノはしばらく躊躇うように口をつぐんだ。その様子がますます意味深に見えて、何か重要な事なのかと、ルーファウスは身構えた──
静寂の長さに眉をひそめたとき、ようやくレノは口を開いた。
まだ躊躇がどこかにあるらしく、レノは一瞬唾液を飲み込む真似をした。そして、言う。
「…………触れたい」
簡潔な、そして何にも覆っていない、醜いともうつくしいともとれる願望だった。
いや、それは、欲望だろうか。
どちらでもよかった。
ルーファウスは笑った。
「レノ」
名前を呼ぶ事は承諾だった。それをたしかに理解し、レノはソファから立ち上がると、ルーファウスの座るソファのとなりにどかっと腰を下ろした。向かい合うかたちになり、レノの真剣な視線を真っ向から受け止めながら、ルーファウスはその指先が触れてくるのをまった。
───ゆっくりと、その指がまず触れたのは、右手だった。
星痕の消えた、うつくしい手。
「………ひさしぶりだ」
指先が撫でるように、手の甲を這う。その様子を見下ろしながら、ぽつりとルーファウスがつぶやいた。レノがちいさく微笑する。
「触りたかった」
「……………」
「あんたを、確かめたかったんだぞ、……と」
「………レノ」
手が伸びて、今度は頬に触れる。指先がすこしだけ、さらり、と金髪を撫でた。
その感触が気持ちよくて目を伏せる。
───温かかった。
「確認は、できたか」
意地悪な質問だと思いながら、ささやくように問う。
レノとの距離が近くなった。こつん、と額が合わさる。
「うん」
「そうか」
「あんたはここにいる」
「ああ」
当然だ、と言うと、レノはわずかに声を上げて笑った。
「………あー、俺、やっぱり社長の事好きだわ」
バカ、そう笑った。
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