「……あー、違う違う。そこ曲がんの。つか社長ひとり?危ねぇからルード辺りに護衛頼めって言ったのに」
闇夜でも目立つ赤い髪が風に揺れる。
そのさむさに身をふるわせる事もなく──彼は耳に押しつけた携帯電話に神経を集中させていたからだ──レノは受話器越しに耳を打つ声に笑った。
「何、あとは大丈夫だと思って帰らせたって事か、と?それで迷ってるなんてダセェぞー社長」
鼓膜を叩く怒声。レノはそれにも軽快に笑う。
「まぁとりあえず……気をつけてな。たぶん大丈夫だと思うけど」
ルードだって、断られたからといってこの夜半、上司をひとりで歩かせる事などしないだろう。
彼にばれないよう、慎重に警護はしているはずだ。責任感のつよいルードだからこそ、なおさら。
「あーいやいやこっちの話。ん、看板見えた?じゃ、そのまま進んで……見えた?そ。そこのホテル」
ホテルの名前を確認し合い、電話の向こうにささやく。
「いま屋上。……怒鳴るなって。社長がとった部屋、ひろすぎ。ひとりでさみしかったんだぞー、と」
「バカを言うな」
耳に押し当てた受話器越しと、反対の冬の風に曝されている方の耳に同時に届いたおなじ声。
ん?と振り返ると、ちょうどルーファウスが扉を開いて、屋上に踏み入れてくるところだった。
あきれたような顔をしているルーファウスへ、レノは携帯電話の通話が切れる音を耳にしながら笑いかける。
「はやかったな、と」
レノも通話を切り、電話をポケットにしまう。
ルーファウスが白い息を吐きながらとなりに来るのを、フェンスに背をあずけながら待つ。
「ん」
「……ん?」
素っ気無く差し出されたものを反射的に受け取って、ルーファウスがレノのとなりに立ち、フェンス越しに景色を眺めるのを視界の隅におさめながら渡されたものを見る。
手のなかにあるのは、温かい缶コーヒー。
「…………何で?」
何か俺のイメージだと、社長ってルームサービスなんだけど。
そう言うと、彼はおなじコーヒーを飲みながら笑った。
「ああ。来る途中、ルードに買って来させた」
「なるほど」
道理で俺の好きな安コーヒーなわけだ──レノは笑い、いただきます、と缶を開け、一口飲んだ。温かさが冷えたからだに沁みる。ちいさなしあわせ。
「今年最後のプレゼント、だな」
「ありがたく受け取れ」
「はいはい」
「……ところで部屋にもどらないか?さむいぞ、ここ」
「んー。でも、何か、こっからの眺め、いいだろ?」
まぁな、と、ルーファウスは景色を眺めたまま言う。その横顔を見てから、レノは背後にひろがる景色を肩越しにちらりと見た。
郊外にある、それなりに高級なホテル。
いまとなりにいる神羅のトップのような、名の知れてる人物が秘密に泊まるには最適な場所だ。
その屋上から見れる景色は──ほんとうは屋上は立入禁止なのだが、神羅の権限を使ってわがままで入れてもらった──遠くには華やかな明かり、近くは暗いなかにぽつぽつと見えるひかり。
ミッドガルはその地区によって設備や貧富がおおきく変わる都市だ。だからこその光景だった。
とくに人工の明かりが遠いおかげで、夜空には星がよく見えた。
「仕事、おわったんだな。連絡遅いから、ちょっとあきらめてたぞ、と」
「ツォンと秘書に帰された。あとはわたしたちに任せて今日はお帰りください、だと」
「………気がきくなぁ」
「年明けに酒でも奢ってやらなきゃな」
「有給の方が喜ぶと思うぞ、と」
「違いない」
低く笑ってから、ルーファウスは振り返った。
「どうせ俺も夜が明けたら仕事だ」
「残念ながら俺も。仲良く出勤といきましょうか、社長」
「まだ夜明けまでは数時間あるんだ、出勤のときを思い出したくない」
「じゃあ仕事の話は打ち切り。恋人同士のあまい会話と洒落込みましょうか?」
くるりとからだを反転させて、ルーファウスとおなじようにフェンスに両腕を組んで乗せ、屋上から見渡せる景色を並んで眺める。
顔をのぞき込むようにすると、ルーファウスはちらりとレノを見て、一瞬だけ視線を合わせ──微笑した。
「俺を口説いてみるか?」
いつもの、自信に満ちた笑み。
レノはすこしだけ、考えるように止まって──硬直して──それから、
「───あいしてますよ」
極上の笑顔でそんな事をささやいて、キスをした。
触れた金髪がつめたい。
唇はかわいていたけれど、つめたくはなかった。
「………今年もよろしく」
遠くに響くひかりと、浮かれた市民の声を耳にしながら、吐息が触れるほど間近でささやく。
ルーファウスは目をやわらかく細めて、笑い返した。
「ああ」
そして今度はルーファウスの方からレノにくちづけて、驚かせてやった。
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