2.14



 秘書の言葉で気がついた。
 今日はバレンタインだ。
「……チョコレート会社の陰謀の日か」
 はぁ、とルーファウスはため息を吐いた。道理で朝から大量に荷物が運ばれてくるわけだ。
 あまりにも多いので別室に運ばせて中身の確認も報告も受けていなかったのだが、大方チョコレートだろう。最近はチョコレートだけでなく、べつのお菓子や花などを渡すようにもなっているらしいから、それ以外もあるかもしれないが。
 そういえば去年は高級な宝石までもらってしまった。どこかの会社のどこかの息子だか娘だか。宝石になど興味はなく秘書にあげたので、あまり憶えていない──基本的にルーファウスはあまいものは嫌いではないが好きでもないので、バレンタインにもらったものというのはほとんど自分で食べたりしなかった。ほしがる部下や秘書に適当にあげて、食べ物以外の花束や先の宝石もまた然りだ(花は秘書がオフィスに飾ってくれたりしたけれど)。
 うかれた恋人たちのためにつくられた、名前だけの行事。
 ルーファウスにとってのバレンタインの認識はそんなものだ。だいたいそんな事には関係なく今日も仕事だ。そして昼過ぎのいま気がついたが、今日提出の報告書にやたらとミスが多いのは、皆バレンタインでうかれているせいだと確信する。そのせいでバレンタインをすこし恨んだ。
 息を吐いて、がりがりとサインをしたり報告書に目を通したりする。
 それから一時間ほど経った、午後三時頃──











 こんこん、











 ノックの音にルーファウスは顔を上げた。
 さきほど確認した時計を、再確認。
(………なるほど、時間の選択はぴったりだな)
 休憩のティータイムにはちょうどいい時間だ。
 ……おそらくティーではないだろうが。
「入れ」
 一言許可すると、扉が開く。
「どーも、社長」
 ───のぞいたのは、赤い髪。
 ルーファウスは笑って、ペンをデスクの上に放り捨てた。
































「……いつ買ってきたんだ?」
「ん?さっきの昼休み。俺から社長への愛のプレゼントだぞ、と」
「………混んでなかったのか?噂でバレンタインの時期、プレゼントになりそうなものがある売場は常にものすごい女性の渦だと聞いたが」
「ああ、それはバレンタインの前だけだぞ、と」
 会話をしているふたりは、オフィスにある仕事とはべつのテーブルを挟んでソファに座っていた。ふたりとも本来なら職務中の時間だが、それはあえて黙認している。
「みんな盛り上がるのは祭りの前、ってね──当日はだいたい、みんな準備完璧!で本番に突入してるから、店はあんまり混んでないんだぞ、と」
「本番?」
「……社長、いきなり鈍いところあるよな……可愛いけど」
「殺すぞ。で、何だ?」
「はいはい。だから、相手に愛の告白?あるいは愛を育む?とか、そういう事だぞ、と。事前にしっかり準備して、当日は渡すだけ、っていうのが一般的」
「ああ、なるほどな……パレードで、兵士たちが事前にしっかり練習と準備をして、私の前で披露するのが本番≠ニいう、あれとおなじだな」
「……………うん、まぁ、ソウデスネ」
 社長らしいや、と笑うレノに、ルーファウスは首を傾げる。
 そしてレノがいれたコーヒーを一口飲んで、テーブルのうえに置かれた白い箱を見やった。縦長の、たいしておおきくないちいさめの箱だ──底もそんなにない。男用の腕時計がひとつおさまるような、そんなおおきさと浅さ。
 真っ白な箱で、文字も何もない。包装もなければテープも何も貼っていなくて、簡単に中身が見れそうだ。
「で」
 コーヒーを置き、その指でそれを指す。
「これは何だ?」
 レノもコーヒーを飲み、それを置いて、にやりと笑った。
「───本番≠セぞ、と」
 ルーファウスは眉をひそめる。
「……中身は?それを訊いている」
「そんな警戒すんな、って。言っただろ?愛のプレゼント≠チて」
「お前の言葉は信用ならん」
「ひどいなぁ。まともなもんだぜ?と」
 どこか自慢しているような様子で、レノはてのひらを上にして、差し出した。さぁどうぞ、という手つきだ。
「開けてみ?」
 促されるが、数秒──止まる。
 だがやがて、箱を手に取った。以前レノに水と言われて差し出された飲み物が、実際には砂糖水だったときから、ルーファウスはレノから何かもらうときは常に警戒するようになっている。
 だからそのときも、箱をゆっくりと──慎重に、そして丁寧に、開けた。
「……な?まともだろ、と?」
 レノの声を耳に、箱の中にあったものを手に取る。
「………ああ。たしかに」
 見た目はな、とつけ加えて──四角い、それを見た。
 チョコレートだ。
 サイコロぐらいの大きさの、ただしそれよりも薄い、一口サイズのチョコレート。それが何個か──五個ほど──縦に並んでいる。
 ただしそれは真っ黒だった。
「ブラックチョコレートか」
 苦くてあまいチョコレート。
 あまいのが主流のチョコレートの中で、異色──とまではいかなくても、それでもどこか違うチョコレートだ。
「中には何もなし。ただのブラックチョコレートだけどなー。でも、ちょっと高めなんだぞ、と。俺の給料の限界までチャレンジした」
「ふぅん……」
 そのチョコレートを指先に持ちながら、ルーファウスはぽつりとつぶやいた。
「きれいな黒だな」
「だろ?」
 独白にちかい言葉に、レノがうなずく。
「あんたにぴったりだと思った」
 一目見て、何となくそう感じちゃったんだよな、とレノは笑った。
「滅多に、黒とか身につけないけど──あんた、黒、似合うしな……と」
 白い指が、あまさだけではない黒のチョコレートを持ち、青い瞳がそれを見る。
 かたちのいい唇の中に、それは放り込まれた。その前ににおいを嗅いだが、平気そうだった。どうやらちゃんとまともらしい。
「………うまいな」
 ほどよくあまく、苦い。ブラックチョコレートはひさしぶりだった。味を忘れているほどだったが、そこそこにおいしい。
「社長、あまいものは好きってわけじゃねぇって言ってたからなー。というわけで俺の愛、どうぞ食べちゃって、と」
「そんな事言われると食べたくなくなるな」
「んな事言うなよ。どうせ社長はくれねぇだろうな、って思って俺が買ってきたんだから」
 バレンタインに誰かにあげるなんてはじめてだぞ、と──そう、レノがぼやくように言うので。
 ルーファウスは残るチョコレートを見下ろして、ひとつをまた摘むようにつかんだ。
 それを眺めて、不意にふ、と笑う。
「………映画とかでありきたりな展開だが」
「え?」
 首を傾げたレノに、ブラックチョコレートをひとつ、口の中に放り込む。
 味わう事はせずに、腕を伸ばした。


















「───くれてやる」
 胸倉をつかんで引き寄せた唇に、チョコレートとともにくちづけた。
 ……やっぱりあまくて、苦かった。









2006.2.14 FINAL FANTASY Z レノ×ルーファウス

バレンタインレノルーでした。何だかんだいってレノはかっこいい事をしてくれる子だと信じてる!
…私が書くといまいちかっこよくならない、んですが…(ぼそり)いろいろ半端な話ですみません。
社長にはブラックチョコレートが似合うよねーという話。
あまい気分になってくださると幸いです…たぶんちょっと苦い?(笑)








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