華咲き誇り君の



────ツォン」








 その声音がうれしそうに弾んでいたのは、目が合った瞬間にぱぁっという音を立てて輝いた笑顔にくわえて、ツォンに笑みをこぼさせた。
 今日この日、正式に神羅カンパニーという会社のトップである社長に座する事が決まっているルーファウスは、その地位に就くにはあまりにも若いという社員たちの声もあがっていたが、副社長就任のときも彼はおなじような声を受けながらも周囲の期待以上のはたらきをした──きっと、就任してから数ヶ月経てば、反発もあるだろうが同時に理解もしてくれるだろう。
「もういい、さがれ」
 支度を手伝っていたらしい秘書にそう命じると、彼女はルーファウスに一礼し、ツォンにも一礼して去っていった。それにちいさな礼を返しながら、背後で扉が閉まる音を聞く。
 ふたりきりになったひろいオフィスの一室で、ツォンは改めてルーファウスに微笑みかけた。
「おはようございます、ルーファウス様」
「ああ。今日お前に会えるとは思わなかった」
 上機嫌、という言葉がそのままあてはまる様子で、ルーファウスはおだやかに微笑むとツォンに歩み寄った。目の前まで来た主に、ツォンはしずかにあたまを下げる。
───ご就任、おめでとうございます」
 告げて、ゆっくりと顔を上げる。間近で見るルーファウスは、その青い目にたしかなつよい意志をたたえてまっすぐに立っていた。
 その様子に安堵を憶えながら、笑いかける。
「急いで仕事を切り上げて参りました。今夜にはもう、戻らなければなりませんが」
「何だ、泊まっていかないのか」
 残念そうにため息を吐くルーファウスに、すみません、と謝罪する。すぐに仕方ない、と肩をすくめて、ルーファウスは笑みを消してツォンを見上げた。年下の上司のその目線を、ツォンはまっすぐに受け止める。
………お前に会うのはひさしぶりだな」
───ええ」
 年老いた主が死に、若き主が王の座に就く。
 そのために、当人であるルーファウスはもちろん、それに従っているツォンを含め社員たちはここ数日寝る間も惜しんで奔走していた。事実上、この会社は新しくなるだろう。ツォンは新たな王が進む道を助けるべく準備をすすめた。
 そのせいで、こうして会う事もできなかったのだけれど。
「服を着る前だったら、お前に抱かれたのに」
………ルーファウス様」
「うるさいな。不用意な発言はするな、と言いたいんだろう──大丈夫だ、誰も聞いてないさ。警備は完璧だ」
 お前がいるしな、と続けて、ルーファウスはくるりと踵を返した。かつん、と足音を立ててツォンから離れると、おおきなデスクの傍らに歩み寄る。
 その不遜な様子に苦笑を浮かべて、デスクのうえに置いてあった花瓶に活けてある花を見やる横顔に、ツォンはわずかに目を細めた。


















 ────デジャ・ヴュ。


















───副社長に就任なさったときと、おなじ服ですね」
 彼が普段も好んで身につけている、白。
 花弁に戯れのように触れながら振り向いて、彼はああ、と笑った。
 気づいたか、とでもいうふうに。
「気に入っている」
「そのようで」
……お前、憶えてないのか?」
 眉をひそめて──不機嫌になりかけている兆候だ──低い声で問うてくるルーファウスは、こういうときは普段どんなに不遜に傲慢に振る舞っても、やはりまだ若いのだと悟らせる。内心でそんな事を思いながら、ツォンは彼の望む真実を答えた。
「私があなたに、それがよくお似合いだと言った事ですか?」
…………べつに」
 憶えてるならいい、それだけが理由じゃないし、と言いながらふたたび背を向けて、今度は花瓶から花を一本抜き取った姿を見る。棘が抜かれた赤い薔薇を手に持ち、その花弁を口元に近づけ目を伏せながら、香りを堪能する横顔をしずかに見た。

















 ………そうだ、あなたは白を身につけるべき人間だ。
 汚れも何も気にしなくていい。赤い血の一滴さえその身にはつけない。
 白が、ひどいくらいにうつくしく映える、










 ────その白を汚すものは私が排除する。
























────ルーファウス様」
 振り向いた顔に、ふかぶかとあたまを下げた。
「あなたと、新たな神羅に───忠誠を」
 それは、彼が副社長に就任したときも告げた言葉だ。
 ゆっくりとツォンが顔を上げた先で、ルーファウスは薔薇を口元に添えたまま、微笑んでいた。





















 ────そしてうつくしい王が名を呼ぶのを、まった。









2005.10.6 FINAL FANTASY Z ツォン×ルーファウス
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