あなたの記憶をわたしは抱きしめる



 遠くから聞こえる声に、ルーファウスはゆっくりと重いまぶたを押し開く。
「…………が?……いえ、………は……です、………」
 起き上がって、ぼんやりとしたあたまのままベッドサイドに置いた時計を見る。まだ、こんな寒い日では外も暗い明け方の四時だ。ルーファウスのとなりでともに眠っていたはずのツォンはいなくて、わずかに開いたこの部屋の扉から差し込む明かりの方を見る。どうやら、部屋から出て電話をしているらしい。シーツにまだぬくもりが残っているので、ついさっきの事なのだろう。
「……はい、………すぐに……」
 ちいさな声で話しているつもりらしいが、耳をすませば断片的に聞こえる。
 呼び出しか、とすぐに見当がついてため息を吐く。めずらしい事ではない。こうして会えても朝までいっしょにいられる事なんて、多忙なふたりには滅多にないのだ。
「親父か」
 さすがタークス、なんて内心で思いながら、足音も立てずにそっと部屋に入ってきたツォンに声をかける。ツォンはすこし驚いたふうだったが、けれどすぐにわかっているとでもいうように枕元の明かりをつけた。オレンジ色のひかりにわずかに目を細めた向こうで、ツォンがベッドの端に腰かける。
「すみません、呼び出しがかかりました」
「……むかつく」
「………ルーファウス様」
「こんな時間に非常識だろ、あのバカ親父」
「……古代種に固執されていますからね、あの方は」
 すでにスーツを着て、ネクタイもきちんとしめているツォンを見る。そのときふと、シャツを一枚羽織っただけのルーファウスに眉をひそめて、ツォンはおもむろにハンガーにかけていた自分の上着を取るとまたベッドにもどって、それをそっとルーファウスの肩にかけた。
「これ、着ていかなくていいのか」
「ええ、大丈夫ですよ」
「……古代種って?」
 ツォンのにおいがする。
 上着を手繰り寄せて、ひそやかに微笑をこぼしながら問うてみる。それは好奇心と、もうすこし引き止めておきたいというこっそりとした願望が理由でこぼれた質問だった。
「もう何度もお聞きになりましたよね」
「わすれた」
「わすれたって」
「……だいたい、約束の地なんてあるのか?ツォン、お前、ほんとにそれを信じて親父の言いなりになってるのか?」
 その問いはずっと訊きたかった事で、ツォンの黒い瞳をまっすぐに見て訊いた──たいてい、ルーファウスの言葉にはすぐに答える忠実な部下だが、そのときツォンは常よりも長く、解答のために沈黙した。
「………わかりません」
 けれど返ってきた答は、曖昧なもの。思わず眉をひそめる。
「わからない?」
「たしかに、我々が追っている古代種の生き残りは不思議な雰囲気の女性ですが──……そんな目で見ないでください」
 何でもないですよ、ほんとうに、見た事がないような女性というだけです。
 どんな目をしていたのか自覚していないルーファウスにそんな言葉までかけながら、それでもツォンはしっかりと答えてくれた。
「彼女がほんとうに、その地に我々を導き、幸福を与えてくれる存在なのか……正直、御伽噺のようで、私には理解しがたい」
「なら、やっぱり単に命令だから?だから行くのか?」
 思わずこぼれ落ちた本音に、ツォンがちいさく笑うのを見て一瞬目をそらす。……いちおう、ルーファウス自身は副社長になり、仕事をこなしていくようになってわがままを減らしているつもり、なのだが。
 それでも、いっしょにいたいという想いは、やっぱりこうしてするりとかたちになってしまう。
「ええ、命令という事もありますが──……けれど私は何年も、その地を追うようになって……ひとつだけ、望むようになりました」
「望む?」
「約束の地があればいいと。そこで、至上の幸福を手に入れる事ができればいいと」
 ふと、ツォンの冷えた指先が、ルーファウスの頬に触れた。
 撫でるように触れて、それはすぐに離れたけれど、熱を残す。







「………あなたを、そこに連れていきたい」












 その地であなたに、至上の幸福を。
 できうるなら私がとなりに立って、約束の地でふたり、





















「ツォン、」
「はい」
 丁寧な返事に笑いかける。
「……まっていてやるから、はやく見つけてこい」
 了解しました、と笑ったツォンに、すこし乱暴にくちづけた。










2005.10.8 FINAL FANTASY Z ツォン×ルーファウス
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