守護者は哀悼しない



「───さて」
 せまく、つめたく、暗い部屋。
 ひかりもあたたかさもないその空間よりもさらに冷酷な声音が、ひびいた。
「よく、60階まで来れたものだな。カードキーをどうやって入手した?」
 床に転がった青年を温度のない目で見下ろして問うが、返答はない。血の塊をからだじゅう、そして唇の端にもこびりつかせた青年は、男を虚ろな目で見上げ、何とかその唇を開こうと試みているようだった──だがわずかに開いた唇に空気が入った瞬間、青年は力なくむせると異物を吐き出す。
 まだ吐き出せるものがあったのか、と半ば感心を憶えながら、男はふたたび言葉を紡いだ。
「お前らのような反乱組織のルートは、粗方見当がついているが──」
 いちおう証言がほしかったんだが、と息を吐いて、仕方がないからルートの源を辿り、その人物に直接出向くかと考える。危険な種は、発見すればすみやかに抹消するのが大事だ。
「他の組織の者も、殺してしまった」
 青年の目がわずかに見開かれるのを見る。薄暗い青。汚らしい色だ、ととりとめのない事を思う。
「しかし、直接あの方をオフィスにまで殺しに行こうとするとは──死を覚悟していなければできない事だ。その意志が、あの方に背くものでなければ賞賛するのに」
 残念だ、と最後につぶやいた。
「……いまは休暇が多い季節とはいえ、警備はやはり強化した方がいいな」
 参考になったよ。
 一発の銃声に重なった言葉は、青年には届かなかったかもしれなかったが、男にはどうでもよかった。














 その後男は車を発進させ、部下に電話で指示を出しながら本社へもどるためひとり夜の道路を走っていた。
 数十分かけて本社にもどり、一度オフィスに顔を出す。もう日付の変わる時刻で、そうなると会社のなかがすでにひとがまばらだ──当然、男が仕事場としているオフィスもひとはほとんどいなかった。
「報告はすませたか?」
 残っていた同僚に問うと、もう社長はお帰りでした、という返事。
「……わかった」
 うなずいて、男は自身のデスクの席に着くと、報告書の紙を取り出して書き出した。
 そうしてすぐに荷物をまとめて、オフィスを出るとふたたび車を発進させた。





















「───遅い!」
 ノックをして名乗り、扉を開けた瞬間に眉を吊り上げて怒った顔と声に見舞われた。
 思わず苦笑をこぼして、口から突いて出たのは心からの謝罪の言葉。男──ツォンは、眉根を下げて申し訳なさそうな声音を吐き出した。
「申し訳ありません、仕事に進展がありまして、」
 抜け出せなくて、と言うと、むくれたままそれでも仕事なら仕方ないとわかってくれたのだろう──おとなしく身を引いて、部屋に入れてくれた。仕事の報告はまた明日だからな、と釘を刺され、はい、とうなずく。そうしてルーファウスのひろい家に足を踏み入れて、彼に添うままに中へ進んでいった。
 ───けれど廊下の途中、部屋に入る前、突然目の前を歩く背中が振り返った。
 その体温が胸のなかに飛び込んできて、抱きついてくる感覚にツォンは息を呑む。
「ルーファウス様」
「………ほんとに、遅い」
 不貞腐れたような、胸に顔を埋めているせいかくぐもって聞こえる声のか細さに、ツォンは迷う事なく腕を伸ばした。
 ひさしぶりに抱きしめたからだの体温、ほそさ、香り、そんなものに安堵を憶えながら目を伏せる。
「すみません………」
「ずっと会えなかった」
「……はい」
「さみしかった」
 ちいさくささやかれた言葉に、抱きしめる腕の力が無意識のうちにつよくなった。
 顔を上げて、青い目がツォンのすぐ目の前で曝される事に心がふるえた。








 ───何てうつくしい青なのか。








「お前は?……ツォン」
 ささやかれて、素直な返答がこぼれた。
「私も、ですよ。ルーファウス様」
 微笑みかけて、告げる。
「あなたに触れたくてしょうがなかった……」
 抱きしめた彼を感じながら、目を伏せる。
(守れた)
 ───満たされる。
(あなたを守れた、……私はそれだけでも)
 充分すぎるくらいなんです、なんて、そんな事は言わなかったけれど。
「……香水の匂いがする……」
 抱き合ったまま不意に、つけてるなんてめずらしいな、とツォンに寄り添ったままいぶかしげに言うルーファウスに笑いかけた。
「……嫌ですか?」
「いや」
 どうしてもおちなかった匂いを隠すためのものだったけれど、それさえも厭われなくてよかったと内心で安堵の息を吐く。

















 ───あなたは知らなくていい。
 この命を私は守るから、









 ………それだけでいい。









2005.10.9 FINAL FANTASY Z ツォン×ルーファウス
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