融ける、ぼくの体温。



「ちょ、」
 ルーファウスは焦った。そりゃ、ときどきいつも冷静で激情に流されないようなこの男が、たまには感情に突き動かされるような事がないかと思ったけれど──ツォンの──そんなふうな顔を見てみたいと何度も思ったけれど──
「まっ───んッ」
 どん、と腰の辺りがデスクにぶつかって、逃げ場をなくす。同時に重ねられた唇の熱さに、ぞくりと背中がふるえた。ルーファウスが倒れないように、ツォンの腕が背中にまわって抱きしめられる。そのいつにないつよさに、また眩暈がした。
「はッ……ふ、ん……」
 真昼間のルーファウスのオフィスで、鍵はかけていないしおおきな窓の方にはカーテンもブラインドも下げていない。
 さすがにルーファウスも、部下とのキスシーンを他人に見られる事は避けたい──むしろ、そういう事に何よりも敏感なのはこの忠実な部下のはずなのに、どうして、と思う。
 けれどその思考さえ、巧みなキスにぼやけていく。
「ん、ぁッ……」
 唇が割られて、口内が荒らされる。絡まる舌と唾液の濡れた音が、わざと立てているのか、いつになく耳に届いてそれが羞恥を煽る。ぴちゃ、という音が思った以上にオフィスにひびいた気がして、ルーファウスは自身のからだが熱くなるのを感じた──
 ……誰かに見られるかもしれない、というスリリングさえ、興奮剤になる。
「ツォッ……ンッ、」
 切れ切れに名前を呼ぶ。息ができなくてそれでも気持ちよくて目が潤み、視界がぼやけてよく顔が見えなかった。崩れ落ちそうになるからだが不安で、反射的に腕を伸ばして抱きつく。
「んッ……ツォ、もッ……」
 やめろ、とかすれた声で言うと、ようやく口内を蹂躙していた舌が離れて、けれどそれは最後にルーファウスの唇を名残惜しいとでもいうように舐め上げた。それに一瞬、ぎゅ、と目を閉じて湧き上がった欲情を押し殺す──
「…………申し訳ありません」
 はぁ、はぁ、と息を整えているあいだに、いまだにからだに力が入らないルーファウスを支えたツォンがぽつりとささやいた。それに顔を上げて、潤んだ目で迫力がないとわかっていながらもきっ、とにらみつける。
「お前ッ……!誰か来たらどうするつもりだったんた、バカ!」
「え、……と、そこまで考えが及びませんでした……」
「はぁ?」
 お前ふざけてるのか、と眉をしかめる。しかしツォンはまるで、ようやく我に返ったとでもいうように──さきほどの強引さが嘘のように、戸惑った様子で気まずげに立っていた。それでもルーファウスのからだは抱きしめたままだったが。
「その、すみません。理性が……」
「意味がわからん」
「……すみません」
 ルーファウスは息を吐いて、ツォンにおとなしく抱かれたまま見上げた。やっとキスの余韻から抜け出せて、いつものように振る舞えそうだった。
「で」
「……はい」
「どういう事か吐け」
 あんなお前らしくない、と言うと、ツォンはルーファウスと目を合わせてかすかに笑った。苦笑にちかいそれがますます理解できなくて、首を傾げる。
「………あなたが今日、レノと──笑っているのを見て」
「………………え?」
「私が見た事もないような顔で」
 笑っていたから。
 そう言い、しかしツォンは目をぱちくりとさせるルーファウスにそれ以上の説明をしなかった。しばらく思考が止まって、再開させるのに少々の時間を要しながらも、ルーファウスは記憶を同時に探りながら信じられない心地で唇を開いた──
「つまり、えーと、お前は」
「はい」
「……嫉妬、したのか?」
「そうですね」
 そうですね、って。
 臆面もなく、開き直ったようにそう言うツォンに、ルーファウスの方が逆に照れてしまいそうになり目をそらした。そうしてようやく、朝の記憶にたどり着く。
 ……そういえばレノと話していたんだ。どんな顔をしていたのかなんて、知らないけれど。
 内容も思い出して、ルーファウスはため息を吐いた。
「………バカかお前」
「ええ」
「お前だって、レノの知らない俺の顔、たくさん知ってるだろ」
 だいたいレノに見せた顔もな、たぶんお前に見せてるはずだ、とぶつぶつ言うルーファウスの前でツォンが目を見開くのを見て、ルーファウスは唇の端を吊り上げた。
「お前には何も隠さず曝け出しているからな」
「ルーファウス様」
「それに、今朝レノと話してたのはお前の事だ、バカ」
 今度はツォンが驚いて、え、と声をもらした。それに満足げに微笑を投げかけて、ルーファウスはツォンの胸元をつかむとぐいっと引き寄せた。
 そしてすこし、ぎこちないくちづけをした。

















「………あの」
「何だ」
「…………もう一度キスしても?」
 まだ足りないのか、と見上げて、微笑をこぼすツォンに意地悪くささやいてやる。
「お前でもそんな事あるんだな」
 それは嫉妬の事と、昼間から仕事中にも関わらずキスをする事、その両方の意味が含まれていた。
 たしかにそれを理解し、ツォンは唇を寄せながら言葉を返した。
「……あなたにだけですよ」
 こんな事ははじめてです、
 とんでもない殺し文句に笑って、抗う事なくルーファウスはまぶたを下ろした。









2005.10.10 FINAL FANTASY Z ツォン×ルーファウス
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