知りえないアフタヌーン



 ───つよい風に、赤い髪が揺れる。









「………髪切ろうかな、と」
 邪魔そうにひとつに結んだそれを背中に払いながら、ぽつりとつぶやいたレノに、となりで銃の調整をしていたルードはすこし黙った後、答えた。
「……………たしかに邪魔そうだ」
「でもな、以前これくらいの長さを一回ばっさり切ったとき、似合わないって皆に言われたんだよな、と。だからまたのばしたんだけど」
「………お前なら何でもいいんじゃないか?」
「えー、ルード、褒めても何も出ねぇぞ、と!」
 にかっと笑って言う相棒に、ルードは銃──遠距離射撃用のものだ──をかまえながら言った。
「……とりあえず、仕事だ」
「あ、ごまかした」
 レノのちいさな抗議は黙殺して、ルードはかちり、と照準を合わせると──一呼吸分沈黙を置いた後、容赦なく銃声を発させた。
「おー、倒れてる倒れてる。さっすがルード!」
 おなじく銃をかまえながら言うレノには何も返さず、続けて二発、三発、続けて鳴り響く銃声。
 ふたりはある路地を囲むビルのひとつの屋上にいた。そこから狙っているのは、見下ろす先の路地──そのうえにある、豆粒ほどのおおきさの人間。
 高性能の銃でやっと見えて、狙え、撃てるほどの遠い距離にいる、敵≠スち。
「うーん」
 悩むようにうなった直後、レノは銃を撃った。
 銃越しの視界に映るのは、銃声に一瞬遅れて地面に倒れる男。
「難しいな、と。やっぱ銃はめんどい」
「………ツォンさんたちの援護を」
「はいはい、わかってるって。ふたりともまだ来てないのか?あ、もひとつ向こうの路地だっけ、と」
「向こうは二手に分かれてるみたいだ、……どうやらこっちは雑魚ばかりだな」
「なぁんだ、つまんないぞ、と」
 かるい調子で会話をしながらも、銃声は空に溶ける。
 まだ昼間のあかるい、青空に、それはひどいくらいによく響き渡った。
「………あれ、もうおわり?」
「すくないな」
「じゃ、降りるか。後始末後始末ー」
 接近戦の方が好き、とかるく鼻歌など歌いながら、レノは銃を下ろした。ルードとともに銃を片付けつつ、新たな武器を用意する。
 レノは愛用のロッド、ルードは短距離射撃用の銃とマテリア。
「つってももう動けないかな、と。急所ははずした?」
「……………」
 グローブを黙って手にはめるルードに、笑う。
「ま、とりあえず、血にお気をつけください、と」
 ロッドをとん、と肩に押しつけながら──戦いに行く前のレノの癖だ──おどけたように言うレノに、ルードはちいさく息を吐いた。
「香水でも、つけろと?」
「ツォンさんのお咎めがないなら平気だと思うけど。ほら、前はすごかったじゃん?まだ副社長にもなってない頃かな……任務のすぐ後に会おうと思ったら超怒られたから何だーと思ったら、血のにおいはさせるな、と」
 でも最近は、ツォンのその言葉もゆるくなったのではないかと思う。他のタークスにも、ルーファウスと話すときは血の香りを漂わせるなとうるさく言っていたが、さすがに最近そんな事はない。ツォン自身は、いまだに守っているけれど。
 彼はもうあのときのようにこどもではない。血のにおいをあからさまに嫌い、避けるようなこどもではない。
 それでもツォンは、過保護でも甘やかしでもなく、ただ忠誠だけでそれを守っている。
「ああ、あったな……そういえば」
「社長にな、前話したんだよ、と」
「……この事をか?」
「ん」
 ツォンさんはどうせ言ってないだろーからなー、と屋上の風を受けながら、笑う。
「何とおっしゃってた、……社長は」
 屋上の出入口である扉に向かいながら、ルードは前を行く相棒の背中に何気なく問う。
 レノは笑みをふかくして、思い出すようにわずかに目を細めて、答えた。
「笑ってたよ。すげーきれいに」
 その声に含まれる意味を、感情を、つきあいが長く聡いルードが気がつかなかったはずはないだろう──けれどルードはとくに何も言わず、ただいつものようにわずかな沈黙を挟んで、短く言っただけだった。
「………そうか」
「そ」
 さーて、と、扉が近づいてきたところで、レノはおおきく伸びをするように両手をひろげた。からだいっぱいに風を受けるような、幼い仕草だ。
「怒られる前に行くか、と。腹減ったし」
「………そうだな」
 短く答えたルードに、レノは肩越しに振り返って、不敵な笑みを見せた。
 そしてドアノブに手をかける。
















 日常を守る戦闘へ、そのまま身を投じた。









2005.11.24 FINAL FANTASY Z ルード+レノ









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