3.14



 バレンタインに比べて、ホワイトデーというイベントは影が薄い。イリーナがそのホワイトデーの当日、三月十四日にそうこぼしていた事を、ツォンは聞いていた。休憩の場で彼女がしゃべり出した事だ。イリーナには(義理だとか言って)チョコレートを先月に受け取っていたので、お返しをほのめかしているのだと思った。そういう事にはきちんとしているツォンはちゃんと彼女にお返しを買っていたので、そのときに渡した。彼女はとても喜んだが、後々にそのお返しは他の女性社員へのお返しと同じだと知り落ち込む事になる。ツォンは当然そんな事は知らない。
 チョコレートをくれた彼女らには、きれいに包装されたちいさな缶に可愛らしい飴がいくつか入っているものをあげた。他に思いつかなかったので、王道の飴しか買わなかったわけだが、レノはいろいろ試行錯誤していたようだった。
「チョコレート以外のもの、くれた子もいたしなー。ツォンさんもいただろ?そういう子」
「ああ、そうだな……ケーキとか」
「食べ物よりアクセサリーとか喜ぶ子がいるからな、と。もちろん安物だけど」
「よく考えているんだな、こういうときだけは」
「だけは余計だっつーの。んー、ま、以前聞いた話によると、お返しをもらう、ってだけでいいみたいだけどな。ホワイトデーって」
 レノの言葉はもっともだと思う。バレンタインのときだって、ツォンがありがとうと受け取っただけで彼女たちは喜んでくれた。お返しをあげるというだけで、彼女たちは笑うのだ。
 飴以外に思いつかなかったという事もあるが、そういう理由もあってツォンのお返しは飴だった。きれいに包装された、大人びた缶の中に入っている可愛らしい色とりどりの飴。そんなものでよかった。レノもツォンも知らないが、それはレノがお返しにあげるアクセサリーよりも高価なものだ。
 後々に彼女らはおいしいと口々に喜ぶのだが、それもまた、ツォンは当然知らない事だった。




















「───私は飴は嫌だぞ」
 お送りします、と申し出るために訪れた、午後十時の社長室。
 まず何よりも先に、ちょうどコートを着込みおえたところだったらしいルーファウスに言われて、ツォンは目をぱちくりとさせた。
「………ええと」
「レノに聞いた。ついでに秘書にも聞いた。私は飴は嫌だからな!」
「あの……ルーファウス様?」
「私が飴が好きじゃない事くらいお前だって知っているだろう。その私に飴を寄越したらクビをきる」
「いえ、それぐらいでクビとは……じゃなくて」
 当然のように差し出されたカバンを当然のように受け取り、社長室を出て行くルーファウスのあとを追いながらツォンは言葉を返す。
「ルーファウス様、私は」
「バレンタインに夕飯を奢ってやっただろう?お返しは当然、飴じゃないものをくれるんだろうな」
 遮って言われた言葉とともにエレベーターがやってきて、乗り込みながらツォンはう、と言葉に詰まった。
「………それが」
「何だ」
 エレベーターが下降していく中で、ふたりきりのエレベーターで数秒迷う。
 だが結局観念せざるをえなくて、ツォンは正直に告げた。
「用意、できていないんです」
「………何?」
「あなたが飴がお嫌いなのは知っています、ので──あなたにだけはべつのものにしようと思ったのですが……何も、見つからなくて──あなたに何をさしあげたらいいのか、わからなかったんです」
「……………ふぅん」
 ぼそりぼそりと言ったツォンに、ルーファウスは数秒黙してから、ただ一言そう答えた。
「なら」
 そして次に、声のトーンがなぜかわずかに上がったルーファウスがツォンの方を向いて、言った。
 それはツォンの予想に反して、不機嫌なものでも怒ったものでもない。
 楽しそうに笑う──無邪気な、年相応の顔。
「これから買いに行くぞ」
「は?」
「私の欲しいもの。わからないなら教えてやる」
「これから……ですか?」
「ああ。確か、私のマンションの近くにあるところは、十一時までやっていたはずだ」
「近くに?」
 自身の分とルーファウスの分のカバンをふたつ左手に持ちながら、右手にはめた腕時計を見る。現在の時刻は、十時十分近く。ルーファウスのマンションへは車で十五分ほどだから、その時間には間に合うだろうが───
「いったいどこですか?」
「花屋」
「花……え?」
 意図が理解できなくて聞き返すと、ルーファウスは笑みをふかくした。
 きれいというよりも、可愛らしく。
「お前から、花をもらった事はないからな」
 青い瞳が、ミッドガルの夜景を背後に細められる。
「私に、赤い薔薇を」
 ───あまい声で。
「ツォン」
 そんな事を言って、彼は、名前を呼んだ。
























「───……あなたには、かないませんね」
 苦笑のようなものをこぼしながらつぶやくと、そうか、とルーファウスはそれはもううれしそうに笑った。
「私がいま、薔薇の他に欲しがっているものが、わかるか?」
 手が伸ばされる。
 細い両腕がツォンの首にまわされて、距離が縮まった。
「ええ、」
 お返しを買うときはわからなかったけれど、
「いまならば」
 わかります、とささやいて、
 誘われるままに、その唇にくちづけを落とした。





























 彼の大嫌いな、飴のあまい味がした。









2006.3.14 FINAL FANTASY Z ツォン×ルーファウス

バレンタインはレノルーだったので、ホワイトデーはツォンルーという感じで…
ツォンさんに薔薇の花束をあげさせたい衝動にかられ、一度は我慢しましたが、うん、耐えられなかった。誘惑に打ち勝てなかった(あきらかに某ホストドラマのせい)。ぎりぎり…ぎりぎりあげてないけど!!(笑)
笑ってください。恥ずかしいもん書いてすみません私も恥ずかしいです。しかし主任は真剣です(笑)。
この後テレながら買うか、それともかっこよく微笑みながら買うか、うん…どっちだろうね…!にこにこ。でも社長は照れる主任を見たくてこんな事を言ったんだと思います。えへ。
楽しんでいただければ幸い!そして恥ずかしいと思ってくださればいいです(笑)。








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