その一瞬の名前を、
 君が死んだ日を僕はときどき思い出すのだけれど、その度に僕は首をかしげるのだ。
 僕は君の死顔に欲情していた。






 どうしてだかわからない。いままで僕にとって君は最大の敵で、それ以上でもそれ以下でもなかった。彼ほどの天才に出会った事はなかったから、駆け引きめいた会話をするときも、殴り合いやテニスで戦うときも、正直楽しかった事は認めよう。だが僕は男に欲情など感じた事もない。同性に対してキスしたいとか抱きたいとか、思うわけがない。むしろ、そういう事には嫌悪を感じる方だ。
 だがあの瞬間、僕の勝利が決まり、君が死んだあの瞬間。
 僕は勝利に酔いしれる事もなく、君の死を喜びましてやかなしむ事もなく、ただ君に欲情した。
(そんな事がありえるのだろうか)
 僕は静かに目を伏せる。
(触れたいとねがった)
 あの一瞬だけ。いまとなってはその欲情も願望も消え失せている。ただ彼の死を感じたあの瞬間だけ、僕は願った。それがかなうのならば、デスノートを捨てて神になる事をあきらめてもいいとさえ思った。
 それほどに強烈な想いは、けれど一瞬だけ。
「月。大丈夫か」
 僕はふ、と顔を上げた。父さんがいた。最高の探偵の死を悼んでいた父さんは喪服だった。彼も、彼の信頼した人間の親戚も何もわからなかったから、ひっそりと僕と捜査員たちは彼らに哀悼した。
「うん」
「泣かないんだな」
「キラを捕まえるまでは」
 まばたきをするよりも短い時間、この身体をこの心をかけめぐった熱。
「前だけを見るよ」
 立ち止まり振り返れば、その名前がわかるかもしれない。
 でも僕にはそんなひまはない。
「行こう」










 神になるよ。
 すべてを知ったら、きっとこの名前もわかるだろうから、───L。






                       2005.1.15執筆/2005.8.6再掲載
template : A Moveable Feast
















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送